セレ女に見るギャルサポの目利き力 マリーシア感情的サポ論
2013年のサポーター界におけるトレンドといえば「セレ女」の出現とセレッソ大阪の台頭が挙げられるだろう。そして、その勢いは止まらず、2014年はウルグアイ代表のフォルランを獲得。キャパシティの大きな長居を埋める勢いだ。シーズン開幕前の順位予想でセレッソ大阪を優勝候補の一角に挙げる関係者も多い。
一方、ライバルのガンバ大阪は降格したJ2からJ1に復帰。長谷川監督の手腕に期待がかかるが、地味な印象が拭えない。かつて2005年にガンバがJ1を制した際は、最もギャルサポが多いクラブだった。その後、新たなギャルサポ来場の新陳代謝は行なわれずスタジアムに男性比率が増加するとともに黄金期の印象が薄れ、遂には2012年は降格となった。
ギャルサポは、多くのコアサポーターからスタジアム内では差別的な扱いを受けている特殊なクラスターである。「ギャルサポ実害説」すらある。しかし、ギャルサポは、過去のJリーグの歴史を辿れば、けっして無視できる存在ではない。
日本サッカー史における5大ギャルサポ
(1)1990年代前半 読売ギャル
(2)1990年代後半 ナナギャル
(3)1990年代後半〜2000年代前半 横浜女声
(4)2000年代前半 ガンバギャル
(5)2010年代 セレ女
強いクラブにはギャルサポが多い。強くなる兆しがあるクラブではギャルサポが増加する。Jリーグが開幕した1990年代前半のギャルサポクラブといえば、あのヴェルディ川崎だ。Jリーグ開幕以前の日本リーグ末期には、すでに4万人をスタジアムに動員するパワーを有していた。その後、勢力図が鹿島・磐田の2強時代となると磐田は「ナナギャル」などギャルサポクラブの代表格となった。横浜F・マリノスも、かつては「ゴール裏が女声」と、他クラブサポーターから揶揄されていた時期があった。その後、2003年、2004年のリーグを連覇している。
「セレ女」といえばイケメンの日本代表ストライカー柿谷人気と思われがちだが、意外なことに、関西地区の番組では山口螢の人気が高い。また、男性視線ではさしてイケメンとは思えない若手選手にも人気が集まっている。今では考えられないことだが、かつて中村俊輔は若手時代に、男性から容姿で揶揄された選手だ。悪意のニックネームとして「イカ」「虫」「キノコ」などと呼ばれた。しかし、それでも、ギャルサポは、デビュー直後に中村俊輔に飛びついた。
かつて中村俊輔にギャルサポが飛びついたのはなぜか。今、セレッソ大阪の若手選手にギャルサポが飛びつくのはなぜか。それは、ギャルサポには先見の目があるのだ。才能を秘めた未成熟の男性を直感的に見つけ出す能力を持ったギャルサポは男性サポーターには持ち得ない特殊能力を持っているといえる。
サッカーにおける大衆性からは、女性は存在を抹消されてきている。それは、母国イングランドにおいて顕著であり、抹消されてきたのは、女性だけでなく、有色人種やキリスト教以外の宗教を信じる者もである。イングランド・プレミアムリーグ、かつて川口能活が所属したこのクラブの選手は多国籍・多民族で構成されている。にもかかわらず、ホームスタジアム「フラットン・パーク」の壁画に描かれたスタジアム風景のスタンドは白人男性ばかり。(人文学院「サッカーの詩学と政治学」より)。つまり、スタジアムはマッチョなビールをパブでガバ飲みする白人男性によって支配されるのがイングランドでは常識とされてきた。その影響は、サッカーが生まれて1世紀以上が経つ現在においても世界中で微妙な影響力を持っている。マッチョな男性が野太い声で敵チームを威圧する、それがサッカーのゴール裏だと。それこそが「ギャルサポ実害説」の根拠である。
上記の「ギャルサポ実害説」を未だに信じるコアサポーターも多い。しかし、ギャルサポが、抜群の目利き力を活かしてスタジアムに押し掛け、チケットやオフィシャルグッズを購入しクラブの強化を後押ししてきたことは紛れも無い事実だ。「セレ女なくしてフォルランの獲得無し」ということを、改めて記録したい。そして、自分の応援するクラブからギャルサポが姿を消し始めたら、それは危険信号だ。ガンバ大阪と磐田の歴史がそれを証明している。