2014年 Jリーグ2階の目線 横浜1-0清水(IAI)


スタジアムから過去に見た富士山の中でも、最も美しく幻想的に輝いていた。このスタジアムにはファンタジーを感じる。青空の下でピッチ上で何度も繰り返される各種のセレモニー。そして浮かれたムード。不思議なムードに戸惑ったが

「あ、ホーム開幕戦なのか。」

私たちは、もう、公式戦は4試合目。シーズン開幕直後であることを忘れていた。

「きっと、奴らの知っている伊藤翔は俺たちの知っている伊藤翔とは違う。だから、対策は出来ていないはずだよ。」

「藤本にゴールを奪い取ってほしいな。」

 

前節の強いインパクトが私たちに大きな希望を与えてくれた。すでにゼロックスとチャンピオンズリーグのダメージは癒されている。今日は、勝ちに来た(美味しい魚も食べに来た)。

日本平では試合前に2本の放水ホースがピッチに登場して水を撒く。もの凄い勢いで水が放出される。消火訓練なので放水をしたことがある人は経験済みだが、放水のときに強い圧力を受けて腕を後ろに持っていかれそうになることがある。だが、ピッチ上を見ると、我々のスタンドの前の放水者は、かなり非力に見える。腰が引けている。右に左にふらつく。遠くに放水する角度にホースを維持できず、圧力に負けて後退する。足下のホースにつまづきそうになる。ホースを捌くスタッフとの連携がとれていない。

「危ない!危ない!」

「まだ開幕戦だ。放水もチームが出来ていないな。」

「あいつ、新戦力なんじゃないか?まだフィットしていないな。後ろとの連携が悪いよ。」

 

サッカーの試合の流れにはメンタルが大きく作用する。序盤から完璧に支配し続けた試合は、一つの判定で大きく流れを変える。小林が68分にシミュレーションを受ける。これは誤審だ。あのタイミングと間合いでは、小林は跳んで逃げるしかなかった。しかし判定は下された。ここで、トリコロールの選手の心に隙が出た。目の前のプレーに集中できていないのか、守備が遅れる。立て続けに警告を受け清水の猛攻に受け身となる。試合全体を振り返って見れば、富澤は際どいファールを行なったが退場にならなかったし、主審の中村さんは小林の退場を防ぐために、セットプレーでプレーを中断して注意を行なったりしてくれたため、審判に助けられた面も多い。しかし、この時間帯から試合終了まで、明らかに選手はプレーが変わった。

「いや、でも審判のせいじゃないって!」

「左サイドのあの辺りがヤバいんだって!水を撒きすぎてスライディングも滑りすぎるから、選手も自分が思ったように身体を制御できていないよ。左サイドは気をつけないとファールになってしまう。」

「確かに、富澤のスライディングも滑りすぎていた感じがする。」

「試合前に水を撒くからだよ。」

「いや、日本平はいつも撒いてるでしょ。」

「じゃぁなんで今日は・・・。」

「もしかして・・・。」

「もしかして・・・。」

「あ!」

「あの腰が引けた放水オヤジ!」

「あの放水オヤジのせいで、あの辺りは凄い量の水が残っているんだよ。」

「あの野郎!」

日本平は素晴らしいスタジアムであるし、相性も良い。清水の人はみなにこやかで優しく親切。魚は美味く、毎年、良いことずくめの遠征だ。しかし、予想もしなかったアウエーの洗礼が、ここに発覚した。

歓喜のシーンは1度だけ。ロングボールをディフェンダーの前で受けてワントラップで置き去りに。あとはゴールに向かって一直線のドリブル。

「撃て!」

撃たない。ディフェンダーが迫る。ギリギリのタイミングでGKが少し身体を内側に動かす。その瞬間、学の脚はコンパクトな振りでボールを逆の方向に流し込む。見事なゴール。

「決めた!」

「上手い!!」

迷いなくシュートを選択した学のドリブルには、いつもに増して迫力がある。繰り返し書く。歓喜のシーンは1度だけ。だが、スタジアムに脚を運んだトリコロールのサポーターは、何度、歓喜の声を上げただろう。予想外の方向に展開されるパス。意外な角度で顔を出す前線の選手。伊藤翔と藤本の加入で、選手たちの動きが変わった。昨シーズンまでと比較すると走る量が違う。パスを受けるためのフリーランニングでパスコースが無限に生まれる。その瞬間に、新しいパスコースが生まれパスが通り、驚きが生まれる。選手の能力が高まったわけではない。選手のメンタルが変わったのだろう。

少ないストレスで中村大先生はプレーしているように見える。この試合での小さな見せ場は3つ。1つ目は、藤本が蹴ったフリーキック。誰がどう見ても藤本が蹴るのはバレバレだった。なぜなら、あの立ち位置に二人が並んだのは今シーズン初だからだ。楽しい小芝居を見た。2つ目は、左サイドのコーナーキックを藤本に「蹴れ」と指で合図したシーン。高校の先輩後輩の厳しい上下関係を見た。3つ目は終盤のセットプレーで清水サポーターから「走れや!チンタラ歩いてんじゃねー!」と声が飛んだのを聞いて、笑いながら一瞬だけ全力で走ったこと。それに対し清水サポーターからも大きな拍手が起きた。これぞ千両役者。格が違う。

中村大先生が目立たない完封勝ちというところに、大きな価値がある。私たちは、また一歩、階段を上ったのだ。試合終了のホイッスルは「歓喜』というよりも「安堵」を呼んだ。

「おー!やっと終わった。」

「勝てて良かった。」

「よし連勝だ。」

「今日は三門がいたら、もっと楽な選手交代の選択肢があったのにな。」

「清水戦に小椋を使うのはリスキーだからなー。」

 

試合後はバスで静岡に移動。車中で全北戦に応援に行った仲間の話を聞く。バスを降りて、通常の7倍という世界一濃い抹茶ジェラートを食べに行き、更には静岡おでんで祝勝会。話が弾む。その仲間の1人は帰りの途中に自宅にメールをすると、どうも奥さんと会話が微妙に噛み合ない。厳しい試合ながら完封し、美味いモノを食べてご機嫌だというのに首を傾げた。どうやら、奥さんは自宅でテレビ観戦をしていて大前のゴールが決まった思いテレビのスイッチを切ってしまったのだという。完封勝利に上機嫌の仲間と10人の相手に追いつかれたと思い込んで憤慨する奥さんの間で会話が噛み合うことがなかったのだ。

誤審、退場、得点の勘違い、試合中にスタンドに担架、などなど・・・ハプニングいっぱいの第2節を終えて連勝、無失点。その前の2試合のことは忘れた。

 

 

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