横浜2-3北九州 第94回天皇杯2階の目線(三ツ沢)


延長戦が終わるまで、残された時間は僅か。既に90分間で3人の交代枠を使い切り、誰一人として脚を攣ることすら許されない展開で入った延長戦。最後の最後にファビオが怪我。

「マズい、出血か?」

タッチラインから外に出るファビオ。顔に水をかける。すぐにピッチに戻ってくる。どうやら、出血はたいしたことがないようだ。しかし、なぜかピッチ内に戻ってくるときに、第4審判も主審も傷口を確認していない。そのままプレー再開。とにかく良かった。

これが最後のチャンスだった。このワンプレーでゴールを奪えなかった。守備に戻る選手たち。とはいっても勝たなければならない。北九州の攻撃を高い位置で食い止めてカウンターからゴールを奪い取り、PK戦にもつれ込む前に試合を終わらせたい。

北九州の選手が主審にアピールする。第4審判も主審にアピールする。

「しまった!傷口を確認していないことがバレた。」

ファビオは再びピッチの外に。出血は止まっていなかった。包帯を巻く。急いでくれ。早くピッチに戻ってくれ。試合は再開する。選手の気持ちはゴールを奪うことに向いていたのだろう。ファビオ不在の中央がぽっかりと空いている。パスが出る。突破される。ゴールネットが揺れる。

こうして、冬の風物詩・天皇杯は真夏の夜に終わった。ディフェンディングチャンピオンの座にいることができたのは元日から数えて、僅かに7ヶ月と20日間だけだった。

早過ぎる敗退。しかし、ブーイングは少ない。目の前の選手は疲弊している。みっともない失点が3つあったが、手を抜いたプレーがあったわけではない。だから、選手を罵るような音は、ほとんど聞こえてこない。やるせない空気感だけが漂った。

「樋口さんのサッカーだった。樋口さんとしては、やりたいことをできたんじゃないかな。喜田のところ以外は予定していた交代だろうし。」

「今日も『自分のサッカー』なんだよね。相手は関係ない。」

「代表は『自分たちのサッカー』を貫いて勝てると思ったらブラジルで勝てなかった。でも、まだ『自分たち』だから代表はマシだよ。」

「ウチは『自分のサッカー』で『自分たち』ではない。『自分たち』と比べると複数形にもなっていないのだから。」

疲れで動きが落ち、競り合いで腰砕けになるシーンまであった伊藤翔、テーピングが痛々しい学は120分間を闘った。いや、闘わざるを得なかったのだ。選手交代の枠は残っていなかった。打ち手が無く、前線を活性化させるスイッチは入らなかった。真夏の試合。蒸し暑くスタミナを失い消耗する。足が攣る選手も現れるだろう。リーグ戦とは違い延長戦もある。となれば、リスクを考えて1人の交代枠を残しておかなければならない。事実、喜田は脚を攣り、その残しておいた最後の交代枠を使うことになった。今夜はリーグ戦よりも交代枠が0.5くらいは少ない感覚の試合なのだ。

全ての誤りの始まりは、ラフィーニャを起用できると思い込んでいたことにあるが、この試合の中で言えば、前半をリードしておきながらハーフタイムで藤田を下げてしまったことだ。樋口監督は、前半の藤田のパフォーマンスに満足がいかなかったのかもしれない。ラフィーニャと同じ役割を、ラフィーニャが参加していた前日練習と同じようにしれくれるように期待していたのかもしれない。もしくは、最近はベンチ入りすらなかった端戸を出場させるために、途中交代を決めていたのかもしれない。本当のところは判らない。でも、一つ間違えなく言えるのは、交代枠が0.5くらいは少ない感覚の試合で、貴重な交代枠を安易に1つ捨ててしまったということだ。

樋口監督自身も、試合後の記者会見で、このように説明している。

「あの時間帯、延長戦への流れを考えた上で、交代カードをどう使うかという部分はありましたが、喜田は足がつってしまい厳しい状況でしたので、アグレッシブにボールを奪って前に運ぶということでボールを奪う役割を求めて小椋を入れました。もし、あの時点で交代させずにすんでいたなら、もちろん前の選手、攻撃の選手を投入して、延長戦で勝ち越そうという狙いは持っていました。」

つまり、あと交代枠が1つ残っていれば「攻撃の選手を投入して、延長戦で勝ち越そうと」していたが、ハーフタイムで藤田を下げてしまったために、交代枠が足りなくなり、攻撃の選手を投入することが出来なかったのだ。

藤本の交代も、同じようなタイプのプレーを出来る天野を入れたいが為の交代だろう。試合状況に合わせての判断とは思いにくい。そのようなこともあって、2-1の状況から追加点を奪いにいこうとするのか、失点しないように守備を固めようとするのか、曖昧でどっち付かずの状況のままに試合は進んだ。勝ち負けよりも、使いたい選手のセレクトとスタイルの堅持だけがベンチから伝わってきた。その戸惑いの中で同点に追いつかれ、そして慌てて攻めに出て敗れた。

これぞ樋口采配の集大成といえる敗戦だった。

「樋口監督の『自分のサッカー』」と書いたものの、闘っているのは選手であり、サポーターも、またスタンドから闘っている。クラブの一員だ。では、現状を打破するために、どうすれば良いのだろう。信じていても同じ過ちは繰り返されているので「信じるのだ」という選択肢は正しいとは言いがたい。アツく激しくスタンドから応援し続けることは必要だろう。だが、ご承知の通り、応援は、その瞬間に短期で効果を生み出すものではない(選手の多くはプレー中には応援は具体的には聞こえないと言っている)。応援する行為の積み重ねが選手のモチベーション向上やクラブの利益に繋がってくるのだ。では、どうする。それは、試合内容について言葉を多く交わすことだと思う。「勝った、負けた」にとどまらず、また、好みの選手の「出場した、出場しなかった」「活躍した、活躍しなかった」にとどまらず、試合について声を上げることが必要だと思う。試合中の声援、歓声、拍手。試合後の会話、叫び、ネット上での書き込みもそうだ。行なわれたプレー、采配について、スタンドからはどのように見えたのかを、もっと仲間や関係者や選手、監督に伝えるべきだ。残念ながら、樋口監督は記者会見で選手の起用意図や戦術について説明することが少ない。大半が、感情の話だ。そして、記者も、具体的な質問をしないため、ほとんど、試合内容に関する情報はクラブからもマスメディアからも発信されない。ここに日本代表の試合との大きな違いがある。となれば、見た者が、どのように感じたのか、目の前にあったことを語り、コミュニケーションの中で様々な評価を交錯させていくしかない。声が大きくなったり、声の量が増えれば、クラブ関係者、選手、監督にも届くだろう(事実、瞬時に声が届いているケースは、過去にも今年にも多々ある)。いま、私たちに追加で出来ることは、それくらいではないだろうか。

転勤で長岡に異動した仲間が、久々に一緒に観戦した。本当は観戦の喜びで胸がいっぱいになるはずだったが表情は硬いまま。

「こんな試合を見ることになるとは・・・。」

「いや、最近は、だいたいこんな感じだよ。」

そう、どんなに試合内容が悪くても、私たちはスタンドに来ている。でも、律儀に来るのは私たちだけではない。次の試合も律儀に中2日でやって来る、この同じ三ツ沢に。私たちに立ち直りの時間を与えてはくれないのだ。この停滞感に強く反抗したい。だから決勝点のラストパスを出したのが風間だったことを覚えておこう。

 

みんなの採点

GK 30 六反 勇治
5 失点はノーチャンス。パスで攻撃の起点に。

DF 24 奈良輪 雄太
5.5 脅威のスタミナで走り続ける。

DF 4 栗原 勇蔵
5 セットプレーの失点は変わらず。

DF 15 ファビオ
5 制空権は制したが。

DF 23下平匠
5.5 縦への積極性が目立つ。反面裏も取られる。

MF 28喜田 拓也
5.5 パスを呼び込む動きが良い。リーグ戦でも先発を狙える。

MF 27富澤 清太郎
5.5 本調子に戻ってきた。

MF 25藤本 淳吾
6 川崎戦はラフィーニャのパートナーか。

MF 11齋藤 学
5 怪我の影響でキレなく。

FW19藤田 祥史
5 なぜ下げられたのかが解らない。

FW16伊藤 翔
4.5 疲れで動きが重く力を発揮できず。

FW 17端戸 仁
4.5 これ以上上手くなる必要はない。ゴールから遠くシュートが不足。

MF 29天野 純
5 持ち味を出すが負けられない試合には荷が重かった。

MF 6 小椋 祥平
5.5 積極的にシュートを放った。

樋口 靖洋
4 いつも通りだがリーグ戦とは違いThe End。

 

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