右サイドからの侵入を許しクロスが入る。待っていたのは石毛。ここで時間が止まり息をのむ。一瞬の静寂があったように思えた。そう、試合前に奥大介に捧げられた黙祷の1分間のように。ここまでデキの悪い清水に失点を許し同点にされてしまうことを覚悟する。あぁ、なんてもったいない試合なんだ・・・。

「おーーーー!!!!」

我に返る。目の前で起きていたのは信じられない出来事。石毛は、絶好のクロスを空振していた。助かった。

「まだまだ!厳しく行け!」
「引くな!」

激しく声が飛ぶ。みんなスッキリと勝ちたい。ずっと見ることが出来なかった流れの中からのゴールだ。大切にしたい。いや、今日、勝てなかったら、もう、ずっと勝てないんじゃないか?そんな気持ちすら持ち上がる。苦しいシーズンに、ひとつの決着を、今日、つけたかった。

そして、試合終了のホイッスル。歓声を挙げ、仲間と握手をする。本来は、このような握手をする試合ではない。優勝に向けて、緊迫した一試合の通過点であるべきだった。しかし、これは現実だ。そして、最低限ではあるが、大きな喜びでもある。

「よし、残留だ。」
「もう、大丈夫でしょう。」
「これで安心できる。」
「来年もJ1だ。」
「良かった。」

残留争いに本格的に巻き込まれる危機を、寸でのところでかわし、一度も降格圏に足を踏み込むこと無く残留を決めた。例年の基準は勝ち点40。今年は下位に同勝ち点のクラブが並ぶため勝ち点38ではないか、と言われている。いずれにしても「生きる降格ライン」大宮からの勝ち点差は9になった。そのようなことよりも、今でも、もっと上を目指したい気持ちだ。それでも、今シーズンの不安定なサッカーを見ると、残留を決めた安堵の気持ちは大きい。

試合開始前、奥大介に感謝した。前夜、奥大介が横浜にやってきて栄光の日々を私たちに提供してくれた2002年から2006年の試合の動画を見た。驚愕した。世界のサッカーは常に進化している。でも、応援しているクラブに限ってみれば、時に、退化することも停滞することもある。メンバー構成や、選手の個性の活かし方でチームは変わる。環境でも。

数日前の天皇杯で、清水はのびのびとプレーしていた。攻撃陣はアグレッシブ。思い切ったドリブルとシュートは魅力的。無駄なファールも減った。トップ下を任された石毛は、攻撃で個性を発揮し、守備では前からのプレッシャーのキーとなった。とても残留争いをしているクラブには見えなかった。大榎監督の手腕を感じた。しかし、この試合では環境が彼らを押しつぶした。日産スタジアムの彼らは、残留争いの圧力に萎縮した。ドリブルにキレはなく、パスはタッチラインを割る。バイタルエリアにフリーの選手を生み出し、放ったシュートは4本だった(石毛の空振が無ければ5本だったが)。

勝ったトリコロールにとって心配なのは残り試合をどのように闘うかだ。ACL圏との勝ち点差は離れている。残留も決めた。今のベテラン選手たちは、何を目指して闘うのか?けが人が、これ以上、出現したいことを切に願う。できれば、レギュラー争いの当落線上の選手や、来期の去就が定まっていない選手にチャンスを与え、闘う気持ちを前面に出す試合を期待したいが、監督は、それを許すだろうか。

「次節は平日の大宮か。」
「勝てる気がしないよなー、ほっと一息だし。」
「いや、よく考えたら大切な試合だぞ。来シーズンの勝ち点6に関わる試合だ。」
「ウチが大宮に負けると、清水が降格してしまう。」
「大宮を降格させれば、ウチは大宮にロスしている勝ち点を、来期は獲得できるチャンスだ。」
「来期のことを考えると、どうしても勝たないといけない試合だぞ。」

祝勝会。大宮には美味い店があるのかが話題になる。
「Googleで調べると『大宮(埼玉県)近辺の美味しいお店 – NAVER まとめ』ってのが出てくる。その一番最初に紹介されているのがビアガーデンだ。」
「そんなのありかよ。ホントに美味しい店が無いんだな、大宮って街は。」
「降格させるしか無い!」

水曜日、大宮を叩き潰せ。

<みんなの採点>

榎本 哲也 5.5
前への飛び出しでピンチを回避。

小林 祐三 5.5
試合感の問題か攻撃参加が少なく見せ場無し。

ファビオ 6
空中戦は連戦連勝。ノヴァコヴィッチをベンチに追いやる。

中澤 佑二 6
攻撃陣に活を入れるためなのか攻撃参加。また抜きのクロスも。

下平 匠 5.5
持ち味発揮。清水の守備陣を混乱させる。

兵藤 慎剛 6.5
バックパスを多用し無理せず無難に役目を果たす。

中村 俊輔 6
やや深い位置でのプレーが多く安全運転。

佐藤 優平 6
センスを感じさせ良いポジションに顔を出す。ただ、ボールに触れるときには息切れ。

藤本 淳吾 6
シュートを撃てばゴールは生まれる。

富澤 清太郎 5.5
守備のアプローチが速く、ピンチを未然に防ぐ。

伊藤 翔 5.5
強さを見せる。クロスの入れ方に工夫もあった。

齋藤 学 5.5
なかなかボールに触れられず、突然に来たチャンスはワンタッチ目が大きく。

藤田 祥史 5.5
楔を受けスペースに走る動きが改善。シュートは惜しかった。

奈良輪 雄太 5.5
樋口監督の「運動量枠」で起用か。

樋口 靖洋 5.5
予定通りの采配。交代選手投入は5分間隔で。