Jリーグ2階の目線2015 横浜4-0浦和


試合終了後に中村大先生と学の長い長いヒーローインタビューが終わると、他の選手は、すでにスタジアムを一周し、メインスタンド側からピッチを後にしようとしていた。横須賀市長の挨拶に、あれほど元気なブーイングをしていた浦和サポーターも、既に、ほとんどいない。この2人を歓迎するトリコロールスピリッツを持つ者だけが、スタンドから大歓声でこの日のプレーを讃える。

スタンディングオベーショヨン。欧州サッカーではよく起こる、ヒーロを讃え感謝を伝える方法。監督が、あえてヒーローを途中交代をし、スタンディングオベーションの機会を提供する場合もある。スタンドのサポーターが立ち上がってピッチを去るヒーローに拍手をする。そう、欧州サッカーだけではなく、日本でも演劇などでは定着している賞賛方法だ。1得点1アシスト。見事なプレーでトリコロールを大量リードに導いた中村大先生がピッチを去るとき、コールではなく万雷の拍手が日産スタジアムを包んだ。誰が指揮するわけでも煽るわけでもない。一人一人のサポーターが感謝の気持ちを掌に合わせた。バックスタンド2階席では後列で立ち上がるサポーターが。そして、それは、徐々に前へ横へと広がっていく。長く大きな拍手が鳴り止まぬまま、中央の後列から前列、そして、ゴール裏側も大半のサポーターが立ち上がる。まさに、スタンディングオベーション。それはJリーグでは珍しい光景だった。

左足首手術とその後の肉離れ。怪我から復帰した中村大先生は苦しんだ。明らかにコンディションは不良だった。特に、トップ下で起用された7月の清水戦では攻撃が全く機能せず9戦勝ちなしに。試合後は大ブーイング。中村大先生を起用すべきか起用すべきではないか論争まで生まれた。偉大すぎるレジェンドにして永遠のアイドル。苦しい夏だった。本人はもちろん、監督もチームメイトも苦悩したことだろう。エリク・モンバエルツ監督は「他の選手は俊輔だけに頼ってはいけない。俊輔がいたとしても後ろの選手たちは自分の責任で縦パスを入れていく必要がある。俊輔がチームに戻ったことで何人かの選手はその責任を果たしていない。」とインタビューに答えた。「ゆっくりしてしまった。」「省エネすぎる。」チームメイトも苦悩の出口を探した。

そして今夜、出口は見つかった。2点目を思い出してほしい。中盤でパスを受けた中町が、厳しいプレシャーにさらされた無理めの体制から縦にパスを送ったプレー。3点目を思い出してほしい。カウンターの起点となった中村大先生が一瞬の時間を作った後に素早く右サイドのスペース深くにグランダーのスルーパスを送り込んだプレー。そして、まさかの体制からダイレクトで折り返したアデミウソンのクロス。中町、アデミウソンと中村大先生の役割分担と距離感。スピーディーでテンポよく、常に縦を狙う攻撃。強く、美しく、創造性のあるゲームがスタンドを沸かせる。エリク・モンバエルツ監督の目指す縦に速いサッカーに遂に中村大先生のプレーがマッチしたのだ。

1997年。高卒ルーキーとしてJリーグにデビューした「坊ちゃん」中村俊輔のプレーには苦悩が見られた。高校生時代には通用した得意のドリブルが通用しない。左足でボールを少し前に出して相手を誘っておいて、後ろに引いてから逆に前にはたいて相手を交わすフェイントが、ことごとく止められてしまうのだ。中村俊輔のドリブルの代名詞ともいえるフェイントを、封印した。プレーを単純化し出口を見つけた。さらに、当時のアスカルゴルタ監督は更に縦に強いプレーを身に付けさせるためにツートップでも起用した。・・・あれから18年の今夜。中村大先生は、次の出口を見つけた。そして、今度は、あのフェイントとほぼ同じ方法で目の前の相手を交わしてスタンドを沸かせた。

スタンディングオベーションの後、それまで押し込まれていた守備は、すぐに立て直された。後半から、浦和は最終ラインのドリブルの減らし、高くポジションをとった関根へのロングパスを多用してきた。しかし、喜田を加えて中央を固めるだけではなく4-2-4で両ワイドのパスコースをも塞ぐエリク・モンバエルツ監督の采配が効いて、危機を完封。最後には、栗原の投入で、ズラタンを封じた。中村大先生の大復活を祝う完封勝利。数年に一度の完勝だ。

・・・。阿部の不用意なファール。ドット沸くスタンド。それもそのはず。ここまで見せたセットプレーの弾道は、これぞ中村大先生という美しい航跡を描いていたからだ。そして、キックオフ直前に大型ビジョンに投影されたガンバ戦の美しいフリーキックの弾道が記憶に改めて刻み込まれている。
「中村大先生お願いします!!」
「ここで決めちゃえ!!」
「頼むぞ俊輔!!」
一瞬の空白。そして、ボールがゴールラインを超える前に中村大先生はゴールを確信して走り出し、私たちは床を蹴って飛び跳ねた。更に美しい航跡を描いたボールはゴールネットを揺らした。これぞ中村大先生、これぞトリコロール。堅守速攻セットプレー。泣いた。

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