試合の思い出は都合よく変わる、久保のブレイクとともに。マリーシア感情的サポ論

Pocket

2011年12月29日15:00キックオフ。国立競技場は延長戦には入り、すっかり空は暗くなっていた。95分に大黒が、職人芸とも言える見事なシュートを決めて、横浜F・マリノスは格下の京都サンガに追いついた。天皇杯最多優勝を狙う名門クラブが、格下のクラブに95分に追いつけば、まず逆転勝ちの流れだ。しかし、信じられないことに116分と120分に得点を追加したのは京都サンガ。横浜F・マリノスは天皇杯準決勝戦で敗退してしまう。

この試合は、長く屈辱的な敗戦として語られてきた。まさかの敗退。
「あの流れで負けるかよ。普通、押せ押せで勝つだろ。」
という落胆。そして、翌日には木村和司監督の電撃解任。多くの横浜F・マリノスサポーターは、この試合のことを口にするのを避けてきた。

ところが、それから5年。状況が変わった。この屈辱の試合は、自慢できる試合になった。
「絶対勝ちパターンだったのに、負けるんだよ。信じられないだろ。誰にやられたと思う?それが、まだ18歳のときの久保裕也にやられたんだ。あいつ、当時から一味違ったよ。凄いゴールだった。」

そう、今や日本代表のエース格に成長した久保裕也を、誰よりも早くから見ていたかのような語り口。サポーターは試合の思い出を都合よく変える。事実は1つ。でも、サッカーに真実など、どうでも良いことなのだ。

石井和裕