ひ弱だった若者の記憶は、遠い昔のように思える。右サイドでパスを受けるワンタッチめ。外へではなく中への選択。ボールを前に押し出し、ディフェンダーとボールとの間に身体を入れる。ここからトップスピードでのドリブルをゴールに向かって仕掛ける。延長戦に入った激闘は、ここで「The ENDo Of Game」。この試合にトドメを刺す。鋭いグラウンダーのクロスを中央に待つストライカーに送る。最終盤に登場するゲームの殺し屋。その名は遠藤渓太という。

彼は帰ってきた。今期絶望と報道されていた。「また、助っ人の離脱か。」と誰もが思った。怪我での離脱、クリスマスの離脱、実は移籍交渉が進んでいた離脱、インスタ中毒での離脱・・・様々な離脱には慣れっこだった。だが、私たちは、こんな助っ人の扱いに戸惑った。こんな助っ人と接する経験がなかったからだ。彼は帰ってきたのだ。厳しいトレーニングを経て、身体を絞り込んで帰ってきた。そして、あの日の三ツ沢と同じように、電光石火でゴールネットを揺らした。ウーゴ・ヴィエラはプロフェッショナルなストライカーだ。

怪我の功名とは、まさにこのことだった。中央に起点がなく攻撃がサイドへの逃げばかりになっていたトリコロールは、扇原が怪我で退くことで息を吹き返した。442のポジションに選手をバランスよく配置することで、中央の攻撃も守備も、人数不足を解消し、やることが整理された。2トップは縦にズレを生み出して配置し、後ろの2から攻撃陣を操った。そして、下平のクロスが蹴られた瞬間に、ゴールまでの軌道は見えた。嘘のような話だが、スタンドで、一斉に声が揃ったのだ、「きた!!!」と。そして、スローモーションのように飛ぶ姿が見え、ボールはゴールネットに突き刺さった。トリコロールを窮地から救った男は伊藤翔。

トリコロールは3つの色という意味だ。だが、こんな激戦には、もう一色、いや、色とは言えない色が必要となる。「光と影を結び時告ぐる高き山羊の陽に向かいし眼に我を納めよ」・・・影の存在が右サイドに突然現れ、ボールを奪い、柏の選手を苛立たせた。繊細な試合を影として操り、ニヤリと笑って眼を光らせるブラックトリコロール。チームを一つにまとめる頼りになる男が中町公祐。

気まぐれだと思われる。序盤に無駄な反則でカードをもらった。試合間隔が開きすぎたからか、ドリブルをミスすることも多く、攻撃面では力を発揮しなかった。「下げたほうが良いのでは?」そんな会話が続いた。しかし、終盤に謎の瞬発力を発揮し攻守に切り替えてピッチを駆けた。それなのに、大事な場面で倒れた。動けない。担架が入る。あと少し耐えれば、決勝戦に進出できるというのに・・・ベンチ前で着替える栗原。突然のことで、上手く脱げない。「急げ!」「早く脱げ!」プレーが再開されると一人少ない状態でセットプレーのピンチを迎えることになる。手間取る。やっと栗原の準備が整ったところで、倒れた男は担架に乗ることに同意する。そして、担架がピッチの外に出ると、何もなかったかのように担架から降りてすたすたとベンチに歩いて帰って行った。栗原は主審の飯田さんの許可を得てピッチに入り、ピンチを回避する。そう、あの謎の男こそがマルティノス。

不運なゴールだった。油断も幾分はあっただろう。だが「不運」で済ませればよかっただけのことだ。ところが、いつものように彼の心は乱れた。キックは狙ったところに飛ばない。前に出られなくなりクロスをお手軽に放り込まれる。弱気かと思ったら、今度は逆に入れ込みすぎてジョンスのボールを奪おうとしてしまう。欲を出してピンチを招く余計なボールタッチも。しかし、相手選手と交錯した、あのプレーでスイッチが入ったのだろうか。至近距離への反応、オーバーヘッドキックをビッグセーブ。終わってみれば、GKに助けられた試合となった。ギリギリのところで踏みとどまった荒れる守護神の名は飯倉大樹。

天皇杯全日本サッカー選手権。真の日本一を決める大会。「Emperor’s Cup All Japan Football Championship」その最多優勝という自己紹介は、海外においては「リーグ戦3回制覇」よりも高く評価されることもある。かつては「元日は日産とどこかが試合をする日だと思っていた」という人がいたという10年間無敗(敗退は全てPK戦)の記録もある。天皇杯は奪回しなければならないタイトルなのだ。かつては、決勝戦に進出さえすれば負ける気のしなかった決勝戦。今回の対戦相手は最強のカップ戦勝者セレッソ大阪。監督は、失点したくない試合で山村をワントップに起用するほどに厳しい勝負を仕掛けてくる。ここまで、強大な対戦相手にトリコロールが挑戦者として天皇杯決勝戦に臨むのは・・・そう、1984年の元日以来だ。奇しくも対戦相手は同じチーム。1984年の決勝戦の対戦相手は日本リーグの名門と謳われ、数々のタイトルを獲得してきたヤンマーだった。そう、ヤンマーは、今回の対戦相手となるセレッソの前身。あのとき、大学を卒業したばかりの若きトリコロール戦士たちが、監督兼任選手・釜本が率いるヤンマーを撃破した。あの勝利から始まったトリコロールのタイトル獲得歴は、数えて18個。2018年の始まりは、あのときと同じ、チャレンジャーとしてのスタートになる。元日に19個目のタイトルを獲ろう。

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<様々な目線から捉えた試合>