2階の目線20182階の目線観戦記

Jリーグ2階の目線2018 横浜1-0長崎


10年ほど前の話だ。長崎には仕事で何度も来ていた。そこで地元の人に質問された思い出がある。
「石井さんはサッカーをお好きなんですって?好きなチームはどこですか?」
「マリノスが好きです。」
「いやいや、そういうのじゃなくてレアルとか、もっとあるでしょ!」
当時は、長崎にJリーグクラブが出来るなんて想像できなかった。ちょうど長崎県にプロサッカークラブを作ろうという動きが本格化し始めた頃だった。Jリーグを目指し始めたクラブのバス車体広告のビジュアルには選手でも監督でもなく高木琢也が使用されていた。長崎県民にとってプロサッカーとは自分ごとではなく、テレビで見る欧州のサッカーだった。

何を怯えていたのだろう。縦パスの入らない前半。ときたま、緩急に変化をつけてワンタッチでパスをつなげば長崎の選手はついてこられない。それでもやらない。トリコロールは、最下位の長崎を攻めあぐんだ。

甘いコースに置きに行ったPK失敗。ここまで力の差が歴然としていながら、ピッチ上では、トリコロールのユニフォームの上にスタンドからは見えない重石を背負っているかのようだった。無駄な浮き玉のパス、到底、通るとは思えないディフェンスラインの裏への無駄なパスが繰り返される。

後半に入ると、トリコロールは自信を取り戻す。斜め前へのパスが繋がる。走る。ドリブルをすれば突破できる。やろうとすれば、途中まではほぼ出来る。あとはシュートを枠に撃てばいいのだけれど・・・。

負けるはずのない試合。長崎の選手は明らかに個人技術で劣る。判断も遅い。セットプレーの守備をしくじらなければ、このクラブから失点はないだろう。ただ、それゆえに、トリコロールは攻撃をどうするか、少しばかり考えすぎて墓穴を掘っているように見える。

「もういいだろう、汝らに勝ち点を与えよう」と神が呟いたのか、伊藤翔の足にボールが当たり、何故か徳重が、そのボールを見送りゴールマウスに転がり込んだ。

ワールドカップ明けからの長い闘いには、ほぼ決着がついた。我々は勝ち残った。
「翔!」
「天野!」
「山中!」
試合を終えた選手たちにスタンドからは声が飛ぶ。トリコロールの選手たちは、ほんの少しだけ逞しくなった。代表入りを果たした選手も2人。勝利の喜びを胸に諫早駅に向かう。スタンドから外に降りる階段を歩くと、ホーム側ゴール裏から愛するクラブを讃えるチャントが響いてきた。

諫早駅から長崎駅へ移動。長崎駅前のホテルニュー長崎のスタッフも、グラバー園近くのホテルモントレ長崎のスタッフも、眼鏡橋近くの松翁軒本店2階のカフェにいたおばちゃんも、みんな試合の結果だけではなく経過を知っていた。Jリーグが媒介となって、たくさんの人と話が弾んだ。
「あんたマリサポでしょ。町田を応援しなさい。」
隣の席になったおばさまに突如怒られる。長崎の人々は初めてのゼイワンを楽しんでいた。アウェイサポーターを歓迎していた。

マリーシア九州メンバーは、毎年、九州でのアウェイゲームの準備を入念に行う。横浜から遠征するメンバーを迎え入れるためだ。彼らの今年の新年会会場は長崎駅前の店。福岡からも複数のメンバーが駆けつけた。なぜなら、長崎でのアウェイゲームの祝勝会の下見を兼ねていたからだ。どんな空間なのか、何が美味しいのか、細かく見極める。その結果が、楽しい祝勝会だった。

長崎市内に住む鈴木は、祝勝会で思いを語った。
「私の夢はV・ファーレン長崎がJ1昇格して、長崎にマリノスがやってくる。そしてマリノスが勝つことだったんです。」
彼女にとっては、残留を確実にした喜び以上の、格別の大勝利だっただろう。鈴木は日産スタジアでの勝利のときよりも高く、そして何度も飛び跳ねていた。

また、来年も、この長崎でアウェイゲームを闘いたい。勝って飛び跳ねたい。
「サッカーには夢がある」

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<様々な目線から捉えた試合>