どうすればサポーターの暴走を止められたのか?
緩衝帯を突破しビジターゾンへ突撃するという選択肢の是非を考える。
浦和レッズサポーターの横断幕がスポンサーの広告を隠したことが事件のきっかけだった。
2019年7月14日、明治安田生命J1リーグ第19節 横浜F・マリノス×浦和レッズの試合前に日産スタジアムのビジターゾンと緩衝帯を仕切る仮設フェンを挟んで両クラブのサポーターが衝突。小競り合いや暴力が発生し怪我人が出た。その場所は横浜F・マリノスサポーターは立ち入りできないエリアとなっている。
この状況はテレビ中継カメラで撮影され(スタジアム外へは放送されていない)、スタジアム内の一部モニタでは放映されていた。おそらく、運営サイドでは視聴もしくは録画をしていたと思われる。
発端は浦和レッズサポーターがスタジアムの横断幕掲出禁止エリアに横断幕を掲出しスポンサーの広告を隠したこと。スポンサーメリットを重んじる横浜F・マリノスのサポーターから横浜F・マリノスおよび試合の運営会社等に対して強く抗議が行われていたが、浦和レッズサポーターが即座に応じなかった。
トラブルを再び増やしている浦和レッズサポーター。違反行為を継続した大分戦。
2014年3月8日に発生した「ジャパニーズオンリー事件」による応援自粛処分、ゴール裏サポーターの連合体である2014年3月27日にURAWABOYSの解散等もあり、近年の浦和レッズサポーターは観戦ルールを違反することが少なかった。しかし、この試合の2節前の 2019年6月30日、明治安田生命J1リーグ 第17節 大分トリニータ×浦和レッズでも横断幕掲出不可エリア(緩衝帯エリア)に浦和レッズの横断幕を掲出する等の違反行為を行った。こちらは大分トリニータが浦和レッズサポーターへ掲出ルールの遵守を求めたが、試合終了後まで改善することが出来なかった。URAWABOYSは2018年より活動を再開している。
「お前は俺の誇らしい友達だ。だが、お前の人生はまだ長く、俺は決着を付けにいく。だから俺一人で行くんだ。」ウォルト
「グラン・トリノ」をご存知だろうか。クリント・イーストウッドが監督・主演を務めた2008年公開の映画だ。主人公のウォルトは隣人がギャングに絡まれ続けていることを知る。ウォルトはギャングが隣人から手を引くように脅迫する。しかし、ギャングは、それをキッカケに隣人の家をマシンガンで襲撃。隣人の姉は暴行を受ける。隣人はウォルトに訴える「許せない!奴らに復讐しよう、殺すんだ!」。

この事件の何が問題なのかを整理してみよう。
この事件にはいくつかの問題が同時に存在する。それぞれに順序や優劣はつけられない。
1 浦和レッズサポーターは挑戦を繰り返している。
前述の通り、大分トリニータ戦に続いて繰り返された観戦ルール違反だ。横浜F・マリノス戦では「横断幕をすぐに外した」という主張をする人もいるが「知らなかった」という言い訳が通用しない観戦ルール違反を繰り返したのは意図的と断定できる。目的は不明だ。
確かに。2階部分の中央はスポンサーが書かれているので横断幕の掲出禁止となっています#fmarinos #urawareds pic.twitter.com/830sOUKW5H
— 🇫🇷カズマリ🇫🇷 (@kazuma_like) 2019年7月13日
2 各クラブの運営は取り締まりに及び腰となっている。
大分トリニータ戦では試合終了後まで改善することが出来なかった。2006年3月25日、同様に日産スタジアムでスポンサーの横断幕掲出禁止エリアに横断幕を掲出しスポンサーの広告を隠した事件があった。その時は、広告看板のほとんどを横断幕から外したものの、一部には横断幕をかけたままとなった。このように、浦和レッズサポーターの観戦ルール違反に対して、ホームクラブの運営は試合の実施を優先し、当日はうやむやに事を収め、後日、非難や謝罪の文章を掲載するという方法がとられている。
これは、当日にトラブルを拡大させない方法として有効とされていると考えられる。しかし、問題を先送りしただけでしかない。恨みは長く記憶され、潜在的にトラブルの原因となり続ける。今回、緩衝帯を突破してビジターゾーンに突入した横浜F・マリノスサポーターの行動を支持する人が「2006年3月25日と同じことが繰り返されたから」という事を突入の理由の一つに挙げていることが根拠だ。
各クラブ、Jリーグは、繰り返される観戦ルール違反に対して、厳しく対処することが必要だ。
3 緩衝帯を突破して突入したことは重大な違反。大きな責任が伴う。
例えて言えば「窃盗に入られたので窃盗犯を刺した」ような事件だ。窃盗も刺すのも犯罪なのだ。過去の日産スタジアムでの横断幕をめぐる事件と、今回の事件が大きく違うのは、横浜F・マリノスサポーターが緩衝帯を突破して、自分のチケットでは本来は入れないエリアに突入したこと。これまでの事例で考えると突破を許した運営側の責任として横浜F・マリノスに罰金処分があって当然だろう。突破したサポーターも厳しく処分されなければならない。
2005年4月23日に日立柏サッカー場で柏レイソルサポーターが引き起こした乱闘事件では下記のような処分がホームゲーム開催クラブの柏レイソルに下されている。
けん責、制裁金1,000万円
再発防止策
1.施設改善 千葉県警及び柏警察署の指導による、場内2ヶ所の鉄製門扉へのよじ登り防止工事と、2.5m以上の高さ確保工事の実施。
2.警備対策
(1)ホームゲームにおける警察官及び警備員の増員(従来比:日立柏サッカー場2倍、柏の葉公園総合競技場1.5倍)。
(2)アウェーゲームにおいて、各主管クラブの許可をいただいた上で当クラブから警備員を同行、入場時から退場時までゴール裏を中心にチェック、監視等の自主警備を実施。
(3)ホームスタジアムにおけるお客様動線の改善。
(4)ホームゲーム開催時のマナーアップ等、広報・告知活動の強化。
(5)警察とのさらなる連携による警備体制の強化。
3.サポーターの処分
(1)場内監視モニター録画映像及び関係者の事情聴取によって暴行行為が判明した柏サポーター11名(いずれも男性)の無期限入場禁止(ホーム・アウェー)。
(2)上記11名が所属する2グループの1年間の場内活動禁止(ホーム・アウェー)。
社内処罰
(1)代表取締役社長 20%減俸3ヶ月
(2)取締役事業統括部長 10%減俸3ヶ月
4 スタジアムに来場しているサポーターの顔色を伺い、社会と対面しない両クラブ。


横浜F・マリノスの文章に書かれた「このようなトラブル」がどのようなトラブルだったのかを理解して横浜F・マリノスの文章を読めるのは、当日に日産スタジアムにいた人だけだ。普通の企業であれば、いつ、何が、どこで、誰によって起きたのかは、隠さず迅速に、最低限の情報として掲載しなければならない。その上で不確定なことは書かないというのが「危機管理広報」の基本だ。なぜなら、本来は、広報すべき相手は社会全体だからだ。本当は、今回の事件で断片的報じられたニュースや噂話、ネット口コミに対して、正確な情報と対処の方針を発表しなければならない(バナナ事件のときは、迅速に行えた)。社会的責任を果たす姿勢を示さなければならない。なぜなら、原因の把握と再発防止を宣言できなければ社会におけるJリーグの価値が落ちるからだ。両クラブは「スポーツでもっと幸せな国へ」を推進する共同体としての自覚を2019年7月15日現在は示していない。残念なことに、この両クラブの文章は、当日に日産スタジアムにいた人だけに向けて書かれている。
細かいことだが、公共性の高い法人の公式文書で「再発防止ができるよう取り組んで参ります。」とは「再発防止を約束しない」ことを意味する。「できるといいなー」という意味だ。
あの場面で、どうすればよかったのか?あなたも考えてほしい。
映画「グラン・トリノ」で、隣人はウォルトにギャングのところへ乗り込むことを訴える。だが、ウォルトは、それを制する。
「考えろ、考えるんだ。」
私は、この映画を飛行機の中で、ちょうど1週間前に見たばかりだ。考えに考え抜いたウォルトが、ギャングに対して何を行なったのか、映画の結末は、ここでは書かない。ただ、今回の事件の直後から、この映画の結末と「考えろ、考えるんだ。」というウォルトのセリフが、何度も脳裏を回った。
緩衝帯に突入すれば暴力事件になるのは目に見えていた。だが、どれだけクラブや警備会社に口頭で訴えても何も起こらなかったことは過去の事例で痛いほどわかっている。
もし、同じことが再び起こったら、私ならこうする。
強行的に押しかけざるを得ない。そのままの状態で試合を開始させるわけにはいかない。しかし、浦和レッズサポーターと接触すれば暴力事件は避けられない。だから、押しかける先はビジターゾンではない。押しかける先は、この試合の運営本部だ。押しかけて騒ぎになれば、私は重たい処分を受けるだろう。それでも、どうしてもの場合は決着を付けにいくことを回避できない。しかし、何があっても「サポーターの衝突」はあってはならないのだ。
浦和レッズサポーターに対処すべき責任があるのは誰なのか?問題の先送りは本当に適切な手段なのか?その点を、関係者は、もう一度考えてほしい。
石井和裕