Jリーグ2階の目線2019 横浜F・マリノス3-1湘南ベルマーレ
同じ位置に立ち止まらない。変化を恐れるな。
言葉の持つ意味は時の流れとともに育ち変化する。かつて「個サポ」という表現は「グループに属さず個人で応援するサポーター」の意味だったが、今では多くの人が「選手個人を応援するファン」の意味で使っている。「マリノスのサッカー」といえば、2年前までは堅守速攻だった。今、誰もがイメージするのは、その頃とはまったく異なる「ピッチを広く使い効率的にパスを回すサッカー」だろう。かつては称賛された「湘南スタイル」という表現から、今では「荒っぽい反則を混じえた特攻スタイル」が想起され、「縦の美学」は「縦社会の美学だろ」と揶揄される。
2つのクラブを巡る変化していく言葉の意味を見ると、それぞれのクラブが進みつつある方角を感じられる。過去にしがみつき朽ちゆく階段から一歩を踏み出せない湘南と、良き時代を古いアルバムに収め初めての坂を登り始めているトリコロール。それが両クラブの現在地だ。
立ち上がりの湘南は、ただ前線の選手が前に走って守備をしてきた。3分で見極める。穴だらけだ。これほど簡単に「前の選手を食いつかせて中盤のスペースに縦パスを入れる」を実践できた試合は、今シーズン初だろう。トリコロールのどの選手も余裕を持ってピッチを見渡した。それをスタンドも感じた。好プレーに拍手、声援、歓声。ここにいる全てのサポーターが登り坂の、その上を見ている。力の差は歴然だった。
監督の思い描いた構想とピッチ上の選手の判断が相まって、ワクワクするシーンが連続して展開される。
「来た!」
「抜けろ!」
「そっちなのか!」
想像を上回るコンビネーションを創造しボールを前に運ぶ。
途中加入の選手のキャラクターも生かされ浸透し、同じ一つのシーズンの中でも、チームの面白みが変化する。トリコロールは選手が中心になって生きている。この試合ではマテウスとエリキ先輩が躍動した。特定の誰かが輝くのではない。誰もが主役になれる。だから今シーズンは面白い。私たちは全員で前に進んでいるのだ。同じ位置に立ち止まらない。変化を恐れるな。年上の語りを必要以上に尊重するな。明日を見ろ。鹿島を意識する必要はない、もちろんガスも。私たちは、この歩みを止めなければ、それで良い。
誇りはクラブが持つ固有の精神ではない。関わる全ての人が育て続ける力なのだ。
そして、最後に家本さんありがとう。酷いファールの連発から危険な試合になる寸前に治められたのは、家本さんのおかげです。