Jリーグ2階の目線2020 横浜F・マリノス1-2G大阪

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宮本監督の術中にはまる船出

試合開始前に新しいユニフォームのビッグジャージが2階席に広がる。それが、よろよろと揺れながら、急スピードで下に進んでいったとき、何名かから「危ない!」という声が出た。上手くいかないこともあるのは当然。美しさもチャレンジも大切。だが、何より、まずは安全でなければならない。それはピッチ上でも同じだ。

1失点目。パギはトラップを奪われて失点した。そもそも、なぜ、あのゴール前にガンバの選手が多い状況でパギに強いボールを戻す選択肢を選ばざるを得なかったのか、問題の本質はそこだろう。何がトリコロールを追い詰めたのか。

「宮本は現役時代に、散々、プレッシャーを受けて失敗してきた。だから、逆にプレッシャーをかける大切さとかやり方とかを知っているんだよ。」

見事に宮本監督の術中にはまった。トリコロール の選手たちの「動きが重い」のではなく、いつもならフリーで受けられる場所がフリーではなかったからパスの出し先がなく、最終ラインからのビルドアップに時間を要した。伊藤は終始苦戦した。ガンバのやり方は前後からの圧縮たるプレッシングではなかった。だからスペースがないわけではなかった。ただ、これまでの対戦相手とは違い、ティーラトンと松原という両サイドバックに厳しくマークを付けてプレッシャーをかけてきた。特に松原には、わかりやすく倉田がマンツーマンで追跡。外にいようが中に入ろうが付いてくる。偽サイドバックによる中盤の数的優位を生み出せなくなったトリコロールがガンバにゲームを支配された前半だった。もちろん、トリコロールに奢りや油断も感じられた。立ち上がり早々のセルフジャッジを見れば、それを否定できまい。でも、相手のミスを誘発させると得点できるのがサッカーというスポーツだ。多発したミスは「自滅」ではなく、宮本監督の策によるものだと考えた方がわかりやすい。

本来であれば、前半のうちにピッチ上で選手自身が修正をかけるべきだった。扇原は昨シーズンと同じような低い位置に戻って、伊藤からのパスコースの選択肢を広げることが出来たはずだし、松原が倉田からのマークを引き受けてスペースを作ったときの遠藤のポジショニングの工夫があっても良かったはずだ。「ボスの信念は揺るがない」「自分たちのサッカーを貫く」というのは聞こえが良いが、相手に合わせての微修正は必要だ。そして、浮き球や前に蹴り出すことは修正とは言えない。

ピッチ上では行われなかった修正を施したのは、監督だった。思いもよらなかった、エリキを中盤の低い位置でボールに触らせて、その上で前線に走り込ませるという一人二役。これでゲーム支配を取り戻すきっかけが生まれることになった。

敗れたことは残念だ。でも、この試合が第1節だったことを幸運と捉えたい。リーグ戦の序盤では「自分たちのサッカーにこだわりすぎで選手が柔軟性を失うこと」は多い。監督がそれを修正できた。これからトリコロールが対策を講じるための時間は十分にある。これが、リーグ戦の折り返し地点を過ぎたあたりの出来事だったら、もっと重く受け止めなければならなかっただろう。そして、シドニー戦の強度が緩すぎたせいでガンバの強度に戸惑ったことも、選手たちにとって不運なことだった。

さて、最後に、少し安心したことがある。それはスタンドの雰囲気だ。シドニー戦の重いムードとは、打って変わって明るく開放的な、いつものJリーグが帰ってきた。平日と週末の違いだろうか、暖かな晴天だったからだろうか。笑顔に溢れプレーに沸いた。開幕戦ながら観客数も多かった。

連覇を目指す大海原にトリコロールは船出した。誰もが王者のサッカーを研究し対策を講じてくる。それを実感する第1節だった。次は強敵との対戦。仲間と一緒に楽しめる週末が楽しみだ。

期待に胸膨らむムードだった試合前

<様々な目線から捉えた試合>