Jリーグ2階の目線2022 横浜F・マリノス1-2川崎 試合後の喜田拓也の誓いと等々力の50秒間
試合終了のホイッスルが鳴る。横浜F・マリノスは、現王者との大切な一戦を落とした。選手は落胆する様子を一瞬だけ見せた。一瞬だけだった。直後に胸を張りピッチ中央に整列。マルコス・ジュニオールは腕を振り何かを叫んでいる。それは、怒りなのか、自らを奮い立たせているのかわからなかった。他の選手よりも早く、彼はゴール裏スタンドに向かって歩き出した。そして、喜田拓也が足早に追い越す。チームメイトに「もっと早く来い」と促す。そしてスタンドに向かって叫ぶ。手は強く握られている。喜田はさらに前に踏み出し、チームメイトよりもゴール裏スタンドに近づき、そこで全ての選手が一礼する。その時点で、二層のゴール裏スタンドは興奮に包まれた。
「次の試合は必ず勝つ」「リーグ王者を奪還する」
ちょっと前には劇的な敗戦のショックを受けていたのにも関わらず、メンタルは劇的な回復を遂げ、下がりかけた首は前を向く。涙もこぼれた。そこにはトリコロールの誇りがあった。
現王者と元王者の戦いはハイレベルで熾烈なものとなった。足を攣る者、怪我をする者……選手交代は難しかった。リーグ戦は折り返し地点を通過し酷暑の夏。選手に疲れは溜まり、判断力も鈍る。試合にアクシデントは付きものだ。
もし、ジェジエウの脚が攣っていなかったら……もし、主審の交代がなくアディショナルタイムが短ければ……もし、西村が怪我をしなければ……、この試合には、いろいろな「たられば」がある。そんな試合の中で、横浜F・マリノスの選手たちは勇猛果敢に戦った。引き分けには満足しない。最後まで勝利を目指し、相手の守備陣を崩す攻撃を続ける。マスカット監督は試合後の記者会見で「自分たちのサッカーを貫く、崩し切ってゴールを狙うところにこだわりを持ってやった」と語った。確かに98分まではそうだった。
しかし、自分たちのサッカーは突然、98分に終わってしまった。疲れて極限状態のアディショナルタイムであっても「勝ちに行った」と「楽に勝とうとした」は違う。崩し切ってゴールを狙うこだわりの感じないイージーな浮き球がゴール前に届かないくらいの場所に放り込まれた。対戦相手が育成年代のチームであっても、よほどのことがない限りはミスしないような山なりのボールだということに加え、そこに味方はいなかった。ここから50秒間、横浜F・マリノスらしいパスは1つも披露されることなく試合は終わり、川崎フロンターレに勝ち点3をプレゼントした。
最後の50秒間には、この試合を勝ち切る意図も、川崎フロンターレの勝ち点を削ぐために引き分けに持ち込む意図も感じなかった。おそらく考える余裕がなかったのだろう。その追い詰められた心を現王者は見逃さなかった。
勇猛果敢とは何か?我々はチャレンジャーなのか?自らを見つめ直す等々力の50秒間となった。そこから先は冒頭に書いた通りだ。マルコス・ジュニオール、喜田拓也、そして全選手がスタンドに誓ったことを信じよう。