Jリーグ2階の目線2022 横浜F・マリノス3-0湘南 シャーレを呼び込む「エリキ枠」が埋まる
湘南ベルマーレというチームは勢いに乗ると面倒だ。だから、この試合の勝負は立ち上がりの時間帯で決まると考えていた。そして、荒波が横浜に向けて押し寄せることはなかった。相模湾は、豪雨の中で穏やかに細波を奏でた。トリコロールは一歩も引くことがなかったのだ。
スタートポジションは3バックの布陣の湘南ベルマーレだが、横浜F・マリノスがボールを保持すると両ウイングが後退し5バックを並べる。5つのレーンを全て塞ごうという考えだろう。試合が進むにつれ、ある考えが思い浮かんだ。
「これ、慌てて攻めずに、中盤と最終ラインでボールを回せば、相手が勝手に5バックに下がってくれるよね。そうすると、湘南の選手の立ち位置はウチのゴールから遠ざかるから、それだけでウチは失点のリスクを減らせるんじゃないの?」
ピッチ上の選手が同じことを考えたかどうかはわからないが、前半は焦ることなくじっくりと攻めることが多かった。そして、湘南ベルマーレは最終ラインに5人を費やすがために中盤の人数は少なくなり、町野は走り回って疲弊した。スペースに余裕のある中盤を渡辺と藤田が自由に動いてボールを動かした。素早いカウンターを受けない限りは、横浜F・マリノスが数的優位を作り続けた。
失点のリスクを極力背負うことなく、高い位置でボールを奪ってカウンターから得点する。実にクレバーな展開で優位に試合を進める。横浜F・マリノスは、その統制がとれていただけに、たった一人だけ、クレバーとは程遠いプレーをする選手が目立っていた。そう、ヤン・マテウスだ。加入して間もない選手なので無理もない。全力でボール保持者の縦を切りにいかなければならない場面でゆっくりと走ったり、開いて幅をとらなければならない場面で足を止めたままだったりする。
「仕方ない、まだわかっていないんだ。」
そんなヤン・マテウスが中央で見事な弧を描くシュートを放ち得点を奪う。あまりに美しい得点だった。
「わかっていないけれど堂々としている。チームメイトのアドバイスにはニコニコしている。で、得点してしまう。これは完全に『エリキ枠』なのではないか?」
「ついに来た、シャーレを呼び込む『エリキ枠』!」
一つも勝てなかった8月が嘘のような9月の快勝。試合を終え、セレモニーを楽しみ、ダイジェスト動画を見たら豪雨も上がった。視界は良好。横浜にシャーレを。