Jリーグ2階の目線2022 横浜F・マリノス1-0福岡 大きな犠牲と着実な前進 そしてアビスパ福岡に伝えたいこと

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この原稿を書くまでに数日の時間を要した。心の整理が必要だった。西村の怪我は心配だった。しかし、終盤戦にアクシデントは付き物であるし、怪我は注意しても防ぎ切れるものではない。そして、怪我をさせてしまった選手も意図的ではない場合が大半だからだ。それゆえに、試合終了のホイッスルを聞いて喜びは爆発したし、新横浜駅に到着するまで上機嫌だった。

ところが、その気分が暗転した。ファールした選手の名前を知ったからだ。

「奈良かぁ……。」

言葉を失った。獲得した勝ち点3を忘れてしまいそうになるくらい大きなショックを受けた。長く試合を見てきたサポーターは知っている、奈良竜樹という選手がデビュー以来、アンフェアなファールで対戦相手を危険な目に合わせてきたことを。だから、この怪我は普通の怪我とは異質なものと感じた。

試合後のミックスゾーンでの奈良のコメントが記事になった。そこには、このように書いてあった。

「タックルで結果的に怪我をさせてしまったこと、彼の体を傷つけてしまったことが申し訳ない。」

あるサイトでは「結果的に」という表現の意味を、このように解説している。

「自分の行為が直接の原因となってその結果(のようなもの)が生じたのではなく、『自分の行為も含まれるかもしれないがそれより他の多数の要素が錯綜して原因となり、いま現在の結果(のようなもの)を招いたのだ』と言いたいときに用いる。」

つまり、そのサイトの解釈によれば、奈良は、自分のタックル自体は正当なプレーだからタックルしたことが直接的な原因ではないと主張している。そこに不運が介在しており、その不運が錯綜して西村の怪我を招いたという主張ともとれる。

そして翌日、アビスパ福岡は公式サイトに以下のような表現が含まれる文章を掲載した。

「意図的ではなかったものの、危険や誤解を生みかねないプレー」

残念だが、奈良個人の主張とチームの主張は合致していた。しかし、誰がどう見ても、足首が折れ曲がるほどの強い力で踏み込んだタックルは「危険や誤解を生みかねない」ではなく危険なのではないか。そして危険に関しては、怪我をさせる足首へのアタックが意図的かどうかは関係ないのではないか。

コンサドーレ札幌でプレーする西大伍は以下のようにツイートした(特定の事柄は指していない)。

「批判を受けるような出来事があった時に無意識的にも自分を守るような言動があると、それは見透かされるものだよね」

相手を怪我させる意図がなくても、怪我をさせかねない危険なプレーを繰り返す選手は存在する。奈良は、現在のJ1では、その代表格といって良い選手だと思う。なぜ繰り返すのかというと、その危険なプレーが意図的ではないからだ。何が相手に怪我をさせるのかを理解できていないから無意識に危険なプレーをしてしまうのだ。人には個性があり状況判断する能力に差がある。それは仕方ないことだ。優れているところがあれば、人よりも少し足りないところもある。しかし、誤りは誤りと認めなければ、同じことは繰り返される。近年「人を否定しない」「とにかく寄り添う」ことが社会で高く評価される傾向にある。アビスパ福岡の表現は、奈良を否定せず寄り添った結果だといえる。そして「意図的ではなかったものの」という表現を削除せずに掲載した媒体社は、この悪質なプレーと奈良の主張に対する小さな抵抗をしたのだと思う。

ただ、忘れてはならないのは奈良がダメな選手ではないということだ。J1のレベルについていけないから危険なファールを多発しているのではないのだ。それは今シーズンのアウェイゲームで、横浜F・マリノスが奈良に手を焼いて無得点で敗れたことが証明している。もう一度繰り返すが、奈良は人並みはずれた高い能力がありながら何が相手に怪我をさせるのかを理解できていない選手なのだ。

起きてしまったことは仕方ないと諦めるしかない。過去に、横浜F・マリノスの選手が対戦相手の選手に大怪我をさせてしまったこともある。しかし、この不幸な事態を引き起こしてしまった原因について、所属クラブは正確に把握し、それを認めなければならない。そして、奈良に適した方法で指導するべきだ。そうでなければ、また同じことが繰り返されるであろう。

素晴らしい得点だった。電光石火のパスワークは中央を切り裂いた。ベスト電器スタジアムで大きな過ちを犯し、その反省と償いを終えたアンデルソン・ロペスがゴールキーパーの動きをよく見てゴールに流し込んだ。

残り時間が僅かになってからの時間の使い方も良かった。相手陣内にボールを送り込んで、ゆっくりとボールを動かした。攻めるような攻めないようなぼんやりとした時間がアビスパ福岡の選手を焦らせていった。そして監督の采配は手堅く、ハイボールに強い交代選手に対応するため、左サイドバックに角田を投入した。万全の逃げ切りだった。

あの勝てなかった8月と違い、選手はアクティブだ。コンディションは回復しメンタルも良かった頃を取り戻したのだと思う。大きな犠牲を強いられたが、この完封勝利は着実な前進だ。