Jリーグ2階の目線2022 横浜F・マリノス3-1神戸 5度目のJリーグ制覇達成 トリコロールは大航海を続ける
2022年11月5日、港町・神戸。残り時間はわずか。得点差は2点。3−1で勝利すれば、念願のリーグ優勝が決定する。タッチラインの外、メインスタンド・ミックス席のフェンスのすぐ前に選手が列を作る。そのとき、ゴール裏が選んだ行動はウイ・アー・マリノスを歌うということだった。少しだけ気が早いが、この瞬間に、涙の堤防を決壊させたサポーターも多かったと思う。目の前では、選手たちが肩を組み、縦に飛び跳ねウイ・アー・マリノスを一緒に歌っている。
左サイドのタッチライン際でテンポ良くボールが動く。最も安全な場所で守備者を翻弄する。藤田譲瑠チマはユーモアすら感じるドリブルを交える。ヴィッセル神戸の選手はついてこられない。微かな抵抗は、大迫が藤田譲瑠チマに対して何事か怒鳴ってエキサイトしたことくらい。ボールは止まらず、そのままパスを回し続けるように見せかけて、小池龍太が中央からシュートを放った。なんという美しいマリーシアだろう。惜しくもシュートが枠を外れたが、ここで試合終了のホイッスル。横浜F・マリノスの5回目のJリーグ制覇が決まった。
意外なことに、スタンドは喜び爆発の絶叫とまではいかなかった。どちらかというと安堵の感情が先行していたような声に感じたし、瞬時に、選手を労う空気が漂った。一般的にサポーターについて「一緒に戦う」という表現が多く使われるが、今シーズンのトリコロールに関していえば「支え続ける」の方が、はるかにふさわしい表現だったと感じた。ここ数年、トリコロールサポーターは徐々にスタイルを変え、よりオープンな雰囲気を広げていった。コロナ禍でのたくさんの経験が、応援を強くした。得点直後に選択した応援手法が、手拍子だけのリズムであったり、スタジアム全体での一体感の作り方であったり、若い世代の感性と今の時代感が盛り込まれ3年前とは大きく変わった。
良かった。本当に良かった。今シーズン、最も強く、最も魅力があり、最も日本サッカーにとって意義ある戦いを続けてきたクラブがJリーグの王者となる。ベンチ外も含め、全ての選手が嬉しそうな表情をしているのが見える。特に目に飛び込んできたのは畠中の表情。そして、リハビリ中とは思えない宮市のアクションだった。
トリコロールが初タイトルを獲得したのは1984年元日。対戦相手はメキシコ五輪(1968年)の銅メダル獲得に貢献した釜本邦茂が監督兼任選手として君臨するヤンマー。新興チームの天皇杯初優勝は日本サッカーに新時代の到来を告げた。約1ヶ月後に釜本邦茂は現役引退を発表。時代は日産・読売の2強時代と移り変わった。
2019年のリーグ優勝ではアンジェ・ポステコグルー監督がアタッキング・フットボールの新時代到来を強く印象付けた。2003年、2004年の連覇では、攻撃のスピードアップを岡田武史監督が高らかに宣言。これはFIFAワールドカップ南アフリカ2010のベスト16進出につながった。
ケビン・マスカット監督も、また新しい時代の大航海に船出した指揮官だ。コロナ禍、猛暑、5人交代に対応したメンバー選択。新しいリーグ戦の戦い方が生まれた。先発メンバーはリーグ戦終盤まで固定されることがなく「誰が出てもマリノス」は合言葉になった。最終ラインと中盤の底でフル稼働した岩田智輝は例外。全ての選手がそれぞれの役割を果たし優勝に貢献した。
ピッチ上だけではない。例えば、ピッチ外でのオビ・パウエル・オビンナの献身を多くのサポーターは深く記憶に刻み込んでいる。脱落しかけたのに脅威の復活を遂げた選手もいる。渡辺皓太だ。この日もピッチで躍動していた。5試合しか出場していないのにも関わらず、エルゴラッソの平均採点は6.2の高評価を得、貴重な勝ち点をもぎ取るオーバーヘッドシュートを決めた實藤友紀もいる。永戸勝也は1年目とは思えないフィットぶり。エドゥアルドは攻守に大活躍し「チアゴがいてくれたら」と嘆く声は、ほとんど耳に入らなかった。的確な選手補強を継続したフロントスタッフにも脱帽だ。
終盤2試合のエウベルは人間離れした脅威のプレーを見せ続けた。エウベルはすごい。ただ、このすごさを引き出したのは、ここまでできるだけエウベルの出場時間を制限し、疲弊しないように起用してきたケビン・マスカット監督の采配によるところが大きかったはずだ。私たちは、ただ優勝しただけではない。これからのJリーグを切り開く意味ある優勝を成し遂げたのだ。
初タイトルから数え、獲得した主要タイトルの数は20となった。1992年に横浜マリノスとしてリスタート。1972年にクラブを創設して50年の節目の年にリーグ制覇を達成することができた。獲得主要タイトル数20は鹿島アントラーズに追いついたことになる。ちなみに、鹿島アントラーズは1947年に創部しており20タイトル獲得までに71年を要している。私たちは1980年代、1990年代、2000年代、2010年代、2020年代にタイトルを獲得し続けており、一時期の「古豪」から「名門」に復帰したといって良いだろう。
2022年11月7日、Jリーグアウォーズで横浜F・マリノスから選ばれたベスト11は5人。高丘陽平、岩田智輝、小池龍太、水沼宏太、エウベルが登壇した。そして、ボールパーソンの素晴らしい働きも賞賛された。最優秀選手賞に選出されたのは岩田智輝。トリコロールのネクタイを締めた選手のスピーチ、インタビューは全てが素晴らしかった。言葉の一つ一つがファン・サポーター、そして次代のプレーヤー、日本のサッカーを育てる。オリジナル10に加わって、その重たい責任を背負ったときよりトリコロールの志が変わっていないことを誇りに思う。
トリコロールはファン・サポーターの想像をはるかに超えて進化し続けている。ありがとう、横浜F・マリノスに関わる全ての仲間たち。おめでとう、横浜F・マリノス。栄光の50年の一部をこのクラブと歩み続けて良かった。次の50年も頼む。