Jリーグ2階の目線2023 横浜F・マリノス5-0横浜FC これで良いのか横浜ダービー

Pocket

横浜ダービーは5−0で打ち止めとなった。お祭り騒ぎの後半5得点の歓喜に沸いたスタンドだが、しばらくすると熱気というほどのものはなくなっていった。どちらかというと「安堵」の感情に近い。何しろ、このカードは負ければ大問題になる。いや、引き分けでも嫌な思いをする。だから、勝つのは最低ラインであり5−0で勝つのは安堵に相当するラインなのだ。そのせいもあって、スタンドの入りは極めて悪かった。ホームスタジアムは1/3も埋まらなかった。本来、ダービーマッチは面白いもので、見逃すことができない大一番だ。しかし、この新横浜では「勝っても得るものが少ない試合」「不人気チームとの試合」「行くのが面倒な試合」という認識が浸透していることがうかがえた。そして、横浜F Cへの関心が薄い。試合前のウォーミングアップで、中村俊輔コーチがシュート練習のパス出しをしていたが、それを気にした人がどれほどいただろう。気が付かない人の方が多かったに違いない。それくらい、相手に視点が動かないのだ。

横浜フリューゲルスの前身にあたる横浜トライスターサッカークラブは1986年に日本リーグ1部に昇格した際「全員がプロ選手」を謳い文句にした。それは、国内プロ選手第一号を世に送り出した日産自動車への対抗意識に感じた。日産自動車の選手の多くはアマチュア選手だったからだ。しかし待遇等の契約問題で6人の選手が試合直前に出場をボイコットし先発メンバー8人で試合を開始する「全日空ボイコット事件」が勃発する。この事件は一般メディアでも大きく扱われ、その時点で、日産自動車をはじめとする国内サッカーチームに関心を持つファンの多くは「全日空=チームを適切に運営できない」というレッテルを貼ることになる。

Jリーグの開幕が近づくと全日空は応援にチアガールを投入する。ピッチ脇で踊り「ギョウ!ギョウ!ゼン・ニックウ!」と英語風の発音でチアガール達は声を出し、それがN H K  B Sの音声に乗った。当時のサッカーファンは、野球と異なるスポーツカルチャーの形成にロマンを抱いており、野球が盛んなアメリカカルチャーから距離を置こうとしていた。それゆえに、読売クラブの導入したサンバ隊による応援が熱狂的に支持を受けていた。21世紀となった今では信じ難い話であるが、Jリーグ初の公式戦が行われた1992年には、オリジナル10のうち5つのクラブのサポーターがサンバ隊を結成した。ヴェルディ川崎、鹿島アントラーズ、清水エスパルス、名古屋グランパス、そして、もう一つは浦和レッズだった(1993年に横浜フリューゲルスもサンバ隊を導入する)。しかし、そんな流れに逆行した全日空のチアガールはサッカーファンの嘲笑の対象であった。

その後、横浜だけをホームタウンとしてJリーグに加入することができず九州エリアを特別活動地域としてJリーグ加入を許されたり、親会社の一つの佐藤工業のトップが「鹿島や清水はチーム名に企業名を入れられるのにウチだけ入れられないのはおかしい」とJリーグにクレームをつけたという噂が流れたり、1992年のヤマサキナビスコカップで招待券を配布しすぎて入場できないファンがスタジアム周辺や木の枝の上に溢れたり、とにかく、横浜フリューゲルスは「全日空=チームを適切に運営できない」というレッテルの延長線上でマイナーな道を歩むことになる。

1998年に横浜フリューゲルスは消滅。横浜F Cが誕生するが、横浜フリューゲルスの後継を主張するサポーターも多かったため、約40年に渡りレッテルを解消することができないままで今日を迎えている。新横浜において、どうしても横浜ダービーが「街を二分するクラブ同士の重要な一戦」という位置付けにならない一因はここにある。日本サッカーのプロ化に始まり、Jリーグを牽引するクラブの一つとして活動してきた横浜F・マリノスのサポーターから見れば、横浜F Cは対等な視線に姿が見えないのだ。

しかし、その関係に変化が起きる兆しがある。親会社のONODERA GROUPは新スタジアムを建設し、横浜市へ寄贈する意向を同市へ提案したと発表した。三ツ沢公園内に新しい三ツ沢球技場を建設しようというのだ。選手の編成も変わった。かつてのベテラン名選手をコレクションのように集める補強から脱皮した。有望な若手を育て世界に送り出している。そして、アンチ・トロコールを声高にうたうサポーターとの関係も見直しを図っている。

ダービーと称される一戦の入場者数が、ホームスタジアムのキャパシティの1/3で良いわけがない。横浜F・マリノスサポーターにも、横浜ダービーを育てていく姿勢が必要となるだろう。「行くのが面倒な試合」のままで良いわけがない。この街でサッカーが輝き続けるためにも、横浜F Cには奮起を期待する。真のダービーマッチとして街の話題を独占するカードになることを期待する。横浜F・マリノスサポーターが「この試合だけは見逃せない」と思うカードになることを期待する。そして、次も勝たせてもらう。結果をもう一度書こう。5−0だ。