横浜5-1八戸 第93回天皇杯2階の目線(ニッパツ球)

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最初のプレーでスタンドが沸く。右サイドに流れた比嘉が鋭いクロス。これは期待できる、というのが序盤の雰囲気。攻撃的なポジションで起用されるという噂だった比嘉はツートップの一角に見えるポジション。自由人のようにピッチを駈ける。後半からは左サイドバックに。得意としてきたポジションで暴れ回るはずだったが、笑いとともに比嘉の時間はあっけなく終わった。

「まさかの脚攣り。」

「それ、サイドバックとしてはヤバくないか。時間が早すぎる。」

「いつもの通りなのか、力んで走りすぎたのか。」

数日前から期待された比嘉の時間は75分間で終わった。ベンチの中村大先生は笑っていた。チームの空気を変える男「比嘉さん」はピッチ上でもベンチに下がっても健在だった。幸いだったのは、中村大先生が笑える状況にあったこと。いや、それ以前に、中村大先生がベンチに座ったままだったことだ。このとき、すでに得点は4-1となっていた。しかし、一歩間違えれば2-2となっていてもおかしくない大ピンチがあった。六反との一対一を外してくれなければ、笑顔がないばかりか、目は逆三角形で表情は凍っていただろう。だが、カップ戦、勝てば良いのだ。そして、無駄な戦力の消耗をなくして。

「前半の苦戦の原因は、やっぱり比嘉さんをツートップに起用しちゃったことじゃないかな。」

いつものワントップではなくツートップ。八戸からボールを奪うと、どの選手もパスの出し先を探す。中央の前のポジションは空白。誰もいない。いつもは中村大先生のいるポジションがツートップになったことで空白になったかのようだ。つまり中盤が一人少ない。そして、比嘉は神出鬼没。どこにいるのかわからない。藤田との距離も通い。スペースに下がってくるわけでもない。不慣れであることが一目瞭然のプレーだった。その影響は大きく、パスは自陣のバックラインで回る。

「前半は、パス1本で0.01点のルールだったら、今頃はもっとリードしていたな。」

「前半のうちに自陣の芝が枯れちゃうかと思ったよ、あんなにパスを回すから。」

 

後半開始から学を投入。前日の日本代表での出場に続いて2日連続のプレーだ。そして、その意気込みが素晴らしい。最初のタッチから何が何でもシュートを放ってやろうという気迫がみなぎるドリブル。シュートは枠に飛ぶことはなかったが、その気持ちはスタンドに十分に伝わる。日本代表の貫禄を見せつけるプレーを繰り返す。怪我からの回復と日本代表でのポジション争いが、闘う学を蘇らせている。

同じく、途中から出場した端戸も角度のないところからシュート。さらにドンホは、惜しくもオフサイドとなったが見事な味のあるクロスを見せる。先発出場できなかった選手たちが積極性でチーム全体を動かし始める。となれば、完全復活の富澤のロングパスが冴える。左右のタッチライン際に見事なパスを繋げる。前半が嘘のような展開だ。

終わってみれば5-1の大勝。兵藤も下げ、余裕が見えた終盤はプレーよりも「ハッチノへ!」の八戸ゴール裏から歌い続けられるチャントのリズムが気になったほどだ。1993年の元日に貴賓席でカップを掲げて以来、ずっと手が届かないままになっていた大切な天皇杯奪還の第一歩は 笑顔で始まった。

「比嘉さんはさぁ、最初は勢いがあったけど、途中から考えだしたら動けなくなったったね。」

「ワントラップ目で仕掛けがないから、今のままだと、あのポジションはキツいなー。」

「じゃぁポジションは、どこがいいんだろう?」

「そうねぇ。」

「中村大先生のお付きで十分に戦力になるんじゃないかと・・・。」

「じゃぁ選手登録しなくていいじゃんか。」

「それどうよ。」

「っていうか、それ、どっかで聞いたことある話だぞ。あぁ、それさぁ『もちろんよ、付き人としてね。ただ……あなた、女優は無理ね。話し相手としては面白いし、いてもらえると助かる。でも、女優は駄目。向いてない。……うん』って鈴鹿ひろ美の台詞だぞ。」

「じぇじぇ!」

ハットトリックの藤田を差し置いて、話題は比嘉さんに集中。さすがはスターだ。今日は比嘉さんの日だった。