2013年 Jリーグ2階の目線 横浜0-0仙台(仙台)


アディショナルタイムに交代をしたのは富澤ではなく中町。

「お前らわかっているだろうな。下手なことしてバランス崩して攻めるんじゃねぇぞってことでしょ。」

「引き分け狙いか。」

程なく試合終了のホイッスルが響く。秋空の下、スタンドのほとんど全てを覆う屋根に反響する。静まる。仙台では、盛んに「逆転優勝に向けて」とメディアが煽っていた。この直接対決で勝ち点3を奪えなかったことは、優勝が絶望的になったことを示している。一方、我々はどうだ。勝ち点3を欲しかった。悔しい試合だ。しかし、この試合開始前に2位との勝ち点差は4。今節でひっくり返されることは無い。優勝に向けて一歩前進したと考えられるのではないか。このシビアな紙一重の闘いは、一瞬のミスが失点に結びついてしまうハイレベル。失点し勝ち点0となるリスクを冒してまでゴールを奪いにいく必要は無かった。そんなことを脳裏に巡らせ沈黙。選手たちがスタンド前にやってくる頃、この試合への満足感がこみ上げてくる。

「よくやった!」

「良い試合だったぞ!」

「優勝するぞ!!」

スタジアム内にはトリコロールのチャントだけが響いた。仙台はこの試合で逆転優勝が絶望となった。それを知ったのは、試合後に国分町で飲んでいるときに視聴した地元テレビ局のスポーツ番組でだった。だが、私たちには無関係だ。私たちは優勝に向けて前に進むだけだ。

試合開始早々に角田が荒っぽい反則を仕掛けてくる。この選手は身体能力にすぐれ、技術も選手も兼ね備えている。代表に名を連ねない理由は、荒っぽいプレーを押さえられないメンタルにある。その欠点に目をつぶれば、前節の村松のような、中村大先生を押さえ込む役割としては右に出る者はいない。そして、この試合のMVPは残念だが角田だった。意外なことに角田は冷静だった。

例えば32分のプレー。左サイドのルーズボールを中町は全速力では追わなかった。まるで、角田が猛烈なスライディングタックルを仕掛けてくるタイミングを提供しているかのようはゆったりとしたスピード。しかし、角田は冷静だった。脚を振上げることなくボールをタッチに蹴り出す。

「惜しい!」

「意外と冷静じゃないか。」

「中町は誘ったと思ったんだけどなー。」

「あの野郎、澤穂希と同じ髪型だというのがムカつく。」

「バロンドールと同じ髪型だぜ。」

「本人的にはイブラヒモビッチなんじゃないの?」

「それもたいがいだぞ。」

とにかく、みんな角田が嫌いだ。

逆に、富澤は早い時間帯に警告を受けてしまった。左右ワイドに仙台の攻撃を食い止める大活躍だった富澤だが、もし立ち上がりに冷静なプレーを出来ていたら、もっとボールを奪い取る守備を仕掛けられたかもしれない。たった一枚のカードで試合は違ったモノになる。

全体に慎重なプレー選択が目立つ90分間。栗原と中澤は自重し、ほとんど攻撃参加をしない。最終ラインで、今では珍しくなった仙台の典型的なツートップの攻撃に受けて立つ。クロスしながらスペースに走り込んでくる柳沢とウィルソンのマークを受け渡し押さえる。太田に至っては、ほとんど何もプレーさせない。自重と言っても積極性を失わない。アグレッシブに、そしてリスクを排して。富澤を加えた変則の3バック風に守る守備は、最後まで崩されることが無い。コンパクトに挟み込んでボールを奪う守備が何度もハマる。中町がボールを力づくで奪うシーンを何度も見る。まるで、シーズン序盤のような厳しい守備が戻ってきた。

「気温が下がった、ということもあるよね。」

監督と選手たちは、仙台とのホームでの一戦の記憶が鮮明に残っているはずだ。そして、ここ数年間の闘いの記録。コンパクトで激しい守備に苦戦し続けてきた。先制点を奪われると、なかなか劣勢を挽回できないという恐怖。それを最も感じさせたのは、若く試合経験が多くはない佐藤だったのは皮肉なことだ。いや、若い選手ほど、萎縮してしまう恐怖感だったのかもしれない。

一方で、勝利への執念と積極性を感じさせたのは、意外なことに端戸。

「よし!来い!」

「ナイスプレー!」

声が飛ぶ。前節の枯れた夏芝とは対照的な長い青々とした冬芝に負けてパススピードが落ちたりドリブルのボールを前に運べなかったりする選手が目立つ中で、芝に負けないどころか仙台の厳しい中盤の守備をもかいくぐる。端戸ならではの足下の高い技術が生きる。後方からパスを受けると、深い懐にボールを収めて一瞬で前を向く。選択肢が広がる。更には、敵GKと激突する積極性。褒められたプレーではないかもしれないが、その闘う姿勢にスタンドからは拍手。

「いいんだよ!闘うんだ!!」

以前のサイドに張ったポジションではない。攻撃時は藤田と近い距離でポジションをとる。ボールを後ろに下げない。今期一番のプレーだろう。リーグ終盤に向けて明るい兆しが見える。

勝てなかった。だが、有意義な引き分けだと感じるのは90分間に隙がなかったからだろう。むしろ、残り時間が少なくなるに従って動きは激しさを増した。最後まで闘った。緩いプレーをする選手が誰一人いなかった。力強さを感じた。

前節、今節、2試合連続で確信する。私たちは優勝すべきだ。このメンバー、この戦術。記憶だけではなく優勝という記録に残すべきだ。前半をメインスタンドで観戦したbjリーグ89ersの選手たちには、この試合の凄さ、面白さが伝わらなかったようだ。巨人たちは前半で姿を消した。テレビ観戦でも、この試合の面白さは伝わらないかもしれない。なぜなら、オフザボールの動きと小さな駆け引きの繰り返しに見応えがある試合だったからだ。そして、その動きを見つめる観客がピッチに敏感に反応し歓声が上がる。その声が、さらに試合の価値を増幅する、その感覚はテレビでは伝わらない。だからスタジアムで確かめてほしい。サポーターが、なぜここまで熱中するのか?今年こそ優勝しよう!と言うのか。答えは、必ずスタジアムで見つかる。

国分町での飲み会の前にホテルにチェックイン。手を洗うとピリリと痛み。手の平が割れていた。休むことなく手を叩き続けて割れた痛みが、激戦を物語った。

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