2013年 Jリーグ2階の目線 横浜1-0広島(日産)

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広島との首位攻防の直接対決。森保監督は、実に森保監督らしく守備的に闘ってきた。5人を横一線に並べる最終ライン。その前に4人。もはや、ペトロビッチ監督の作り上げたクリエイティブで攻撃的な広島は幻のようだ。柳下監督が「つまらないサッカー」と吐き捨てるのもうなづける。

トリコロールは実にトリコロールらしく闘った。それはピッチ上だけではない。ビッグフラッグやコレオグラフィでスタンドを演出したサポーターも、いや、年間に数試合の来場をするかしないかくらいのファンさえも、実にトリコロールらしく闘った。

この大切な試合でスタンドが大歓声に湧いたポイントは3つだ。それに準ずる4番目は、中村大先生がゴール前でフリーキックを獲得したシーンだろう。では3つのシーンとは何か?

前半は、足を止めて周囲の選手を指差して指示に忙しい学。

「代表に行って何を学んできたんだ?」

「旅行してきただけかよー。」

「マイルは溜まるよね。経験は蓄積しないけど。」

全く機能しない。もしかすると、守備の指示を忠実に守るためにアタマの中がオーバーフローしていたのかもしれない。広島は攻撃に入るとミキッチをタッチラインぎわの最前線に上げてくる。そこをマークするのは奈良輪の役割だ。最終ラインの塩谷にボールが渡ると、学は塩谷とミキッチの中間にポジションをとる。パスコースを切るのだ。そして、パスがミキッチに通ってしまった場合は奈良輪と前後からミキッチを挟み込んでボールを奪い取ろうという指示のようだ。学はこの守備を完璧にこなそうと、かなり苦心しているように見えた。攻撃面では、何ら見るべきシーンは無かった。なお、ミキッチは奈良輪が1人で止めていた。

後半に入ると守備の方法が変わった。マルキーニョスと中村大先生は最終ラインへのアタックをかけなくなる。逆に学は塩谷のボールを奪い取ろうとダッシュで前に仕掛ける守備に変わる。これで、学のアタマは開放されたのかもしれない。

型にハマると学のプレーは素晴らしい。観客を感動させ熱狂を生み出す。左サイドで動き直してボールを受ける。前にいる佐藤がスペースに走り出す。ディフェンダーが釣られる。コースが開ける。そこにドリブルで仕掛ける学。

「撃てる!」

「行け!」

「うぉーーーーー!」

「決めたっ!!」

総立ちになるバックスタンド。絶叫する。連覇の年のユニフォームに身を包んだジャンボマリノス君のぬいぐるみが飛んで来る。抱き合う。アウエー側のコーナーの向こうまで埋まった2階席は屋根に反響して鼓膜が敗れるような大歓声。待ちに待ったゴールは、日本代表選手によって生まれた。

2つ目のシーンは、Jリーグ最大のスーパースター中村大先生によって生み出される。しかし、それはフリーキックでも、ドリブルでも、シュートでもない。そのシーンは守備だった。カウンターのピンチに長い距離を全速力で走って戻る中村大先生。脚を出し、縦のコースを切る。派手にタックルをしたわけではない。全力で走る姿が心打つ。敵がミスをする。スタンドが揺れる錯覚をするほどの大歓声。ガッツポーズをする中村大先生。過去に、このような守備で、あれ程派手なガッツポーズをした選手は田口(全日空、フリューゲルス、広島、浦和、現なでしこリーグ事務局)くらいしか見た記憶がない。1987年代に元ブラジル代表主将のオスカーが加入して以来、受け継がれてきた堅守のDNAはサポーターにも浸透している。この大切な試合で重要なことが何なのか、ピッチ上だけではなくスタンドまでが意思統一されている。実にトリコロールらしいホームゲームの闘いだ。

広島は決定機を何度か生み出すが哲也のファインセーブで凌ぐ。攻撃的な選手を投入した広島はバランスを崩して攻めに来る。これを上手くかわして勝利は濃厚。ところが、流れが変わる選手交代。77分に、攻守に運動量で貢献していた佐藤を下げる。小椋の投入。カードをもらっている中町を中央にしたボランチ3枚の布陣に見える。しかし、その前の選手たちの守備の方法が不明瞭でピッチ上は大混乱。守備のラインは下がり劣勢に追い込まれる。ピンチの連続。

 約10分間を凌いで樋口監督はマルキーニョスを下げて藤田を投入。ここからが3つ目のシーンだ。前線から藤田がボールを追い回す。それに合わせて学と中村大先生も押し回す。まるで鬼ごっこのようにボールを追い、広島に攻撃することを許さない。ボールを保持しているのは広島だが、広島を攻撃しているのはトリコロール。

「行け!」

「追え!」

「やれ!」

声援と大歓声。まるで、目の前に転がる勝ち点3を、自らの脚で追い回すかのようだ。そう、3つのシーンは、学のゴールを除くと守備のときだった。

試合終了のホイッスルと同時に大歓声。いつもの試合後とは違い、長時間の拍手が鳴り響く。ホッとする空気。首位奪還。苦しい試合だった。そして、トリコロールらしい試合であり、強者の試合でもあった。このとき、ほとんどの人はすっかり忘れていたが、兵藤とドゥトラを欠くゲームをものにした。

「栗原は次節停止だよ。」

「ま、全然問題ないんじゃないか?」

試合後の話題は守備に集中。

「リーグ戦は、これで4試合連続で完封だよ。」

「良い流れになってきた。」

「哲も中澤も素晴らしかった。」

「実は4試合で2得点だけどな。」

「ここに来て失点が少ないのは良いね。」

そして、やはり今日のヒーローは奈良輪だ。

「最高の準備はしてきたので『これでダメなら自分はそこまで』という気持ちでやってきた」

ヒーローインタビューで語った奈良輪の心意気は涙を誘った。あの頑張りはサポーターの心を動かす。さすがは佐川で鍛えられただけのことはある。歓声は学のインタビューよりも格段に大きかった。

最後に全サポーターに問いたい。広島のサッカーはJリーグ連覇に値するものであったか?このような守備的なサッカーで連覇を許すことは日本サッカーのためにならないのではないか。では浦和は優勝に値するサッカーか?攻撃的で面白い。しかし、気が抜けたような大量失点をするサッカーも優勝に値するとは思えない。優勝に値するのは我々だけ。百歩譲って、他にはセレッソくらいだろう。誰もが、そう感じたはずだ。 だから優勝しよう。