2013年 ナビスコカップ2階の目線 横浜2-0甲府(アウエー)

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強さと美しさ。シーズン開幕前の不安が嘘のような連勝街道。ベテランは好調。補強は的確。2-0の完勝を見届け、みな饒舌になる。

「このまま全勝優勝しましょう。」

「無敗優勝ならミランとかアーセナルとかで記憶があるけれど、全勝優勝って記憶にないね。」

「もはや、ライバルは白鵬しかないでしょう。」

「全勝で三冠いきましょう。」

「小橋健太かよ!」

「全勝優勝だと,優勝はいつくらいに決まるんでしょうねぇ。」

「浮かれてるなー。」

「今のうちですよ。いま『連勝はいつか止まる』なんて中途半端に語っても、何にもならないし。」

「思いっきり浮かれましょう。」

10年も20年も、このクラブを追い続けている人が多い。当然のこと、課題を感じてはいる。

例えば藤田。チャンスを多く演出したが基本的には噛み合っていない。藤田の構えは、ほぼ半身の体勢。立ち上がりのGKと一対一を創ったシーンなどを見て解るように、ディフェンスラインの裏を狙って仕掛け続ける。その結果、甲府のディフェンスラインは下がった。そして、兵藤や斎藤、さらにはドゥトラが自由に仕掛けることが出来た。しかし、藤田が中央で受けた場合は、シンプルにワンタッチで味方に預けるプレーが多い。そこは機能しているとは言いがたい。だから中央に攻撃の起点は生まれにくい。このままでガス戦を迎えれば、トリコロールの攻撃はサイドに追いやられる可能性が高い。

例えば兵藤。実は兵藤のプレーが不安だ。昨年には見られなかった、すぐに倒れるシーンが多い。途中交代もある。実は、どこかを痛めていて、踏ん張りが利かない状態で、だましだましのプレーを続けているのではないか。

そんな不安は数え始めればキリがない。しかし、今は、浮かれていればいいのだ。これまで対戦した5クラブが、今シーズンのリーグ戦は全て、まだ一勝もしていない不調のクラブだということは秘密にしておいて、勝利のほうとうと美酒に酔う。

試合開始。甲府の攻撃に戸惑う。前節の川崎戦の直後ということもあり、パス回しのスピードが速い。そして攻守の切り替えが速い。さすがは城福監督のチームだと感心する。そして、復帰初出場の天野が、その対応に戸惑う。

「ちょっと、どこにポジションをとればいいのか、迷っている感じだ。」

「頑張れ天野!」

しかし、それは立ち上がりだけだった。次第にペースを握る。両サイドバックのポジションを高い位置で維持して、中盤の数的優位を作ってボールを回す。今シーズンの5試合で、最も素早く的確にパスが回る。そしてクロスの質が違う。逆サイドからファーサイドまで、速くて低くて弧を描いたクロスボールが飛んでいく。ゴール前のクロスだけではない。中盤のサイドチェンジもそうだ。トン、トン、トン、と、短くパスを繋いでスコーンと逆サイドに速くて低い弾道でパスを送る。ピタリとトラップでコントロールをして、素早く次のアクションへ。これが、甲府盆地を囲む雄大な山の背景と相まって、ミュージカルの舞台のようにテンポよく行なわれる。気持ちがよい。ついに、パス交換だけで歓声が上がるチームに成長した。

そんなクロスがゴールを生む。左サイドのスペースに走り込んだ学が敵をかわしてクロス。そのとき、大外に走り込んでいる人影。

「兵藤だ!」

「なぜ兵藤!!」

「おっ!」

まさに、大きく伸ばす歓声は不要。誰もが、短く大きな声をあげた。兵藤は大きくジャンすすることもなく、ただ、頭の位置にクロスボールを合わせて、ヘディングシュートを叩き付け、ゴールネットが揺れる。スタッカートの効いた小気味よいゴール。

甲府の攻撃はウーゴが中心。シュート力がある。密着マークを受けて背負ってボールをキープしても、一瞬で振り向いてドリブルに移行することが出来る。既に甲府のエースとしての風格をみせてきた。しかし、この試合では何も出来ない。対人プレーに強い中澤とファビが前を向かせない。挟み込んで中町のボール奪取が光る。トリコロールの守備は、敵ボールを奪い取る守備だ。

前節に続いてファビオのプレーがスタンドを沸かせる。追いかけながら足を伸ばす。後ろから敵の土手っ腹にミドルキックを打ち込んだかに見えたが、信じられないことに、足はボールに届いてノーファール。身体のスケールを活かした守備をみせる。

前半終了のホイッスル。そこで出た言葉は・・・。

「完璧。」

 

後半も攻勢は続く。甲府はウーゴを下げてしまった。守備の奔走することなく攻撃を続ける。中村大先生は自由にプレーを出来る。裏に走り込む学にスルーパス。ペナルティエリアには2人が侵入している。2番手で入ってきた兵藤への丁寧なグランダーのクロス。しかし、兵藤にはコースがなく、これも丁寧に曲げてシュートを撃ってきた。

「入ったか!?」

「うわぁ外した!」

「惜しい!!」

「2点目かと思ったよ!」

 

さて、追加点までの流れ。これが実に面白かった。コーナーキックのリスタート前にファーサイドで中澤が倒れる。吹かれるホイッスル。中澤と接触をした甲府の選手は主審から注意を受ける。中澤は気に留めることもなく涼しい顔で、自らのポジションに戻っていく。中村大先生が蹴り直したコーナーキックは、ファーサイドの中澤でもファビオでもなく、ニアサイドの中町へ。しかも、速くて低い鋭い弾道。中町を経由したスピードボールはファーのサイドネットに流れていく。

「決まった!」

「見事!」

「騙された!ファーサイドだと思い込んでいたのに。」

「あれは甲府の選手も騙されたでしょう。誰も中町と競れなかった。」

してやったりの追加点。すでに完璧だった試合運びは2点差となり盤石。これで勝負は決まった。

 

さて、次のハイライトは、おなじみの樋口監督の交代策だ。70分を過ぎるとベンチに動きが見える。樋口監督が誰かを呼んだ。

「おっ、優平が呼ばれたぞ!」

「さぁ、問題は、ここからの樋口さんの話が長いということだが・・・。」

「どれくらいで優平は出てくるだろう?」

試合は動いている。ベンチに向かった視線は中断。ピッチ上のプレーに集中する。そして74分。

「おっ!また誰か呼ばれたぞ!」

「なに?二枚替えか!?」

「あれ?呼ばれたのは優平だぁ!?」

「どういうこと?」

「これは、もしかして、75分に入れようと思ったけれど、話が短く終わってしまったので、75分になるまで、ベンチ前からアップのスペースに時間調整で優平を戻していたというのか?」

「そこまでして、先に決めていた予定の75分に投入したいのか!?」

 

変化をつけるボールタッチ。残り時間を考えた緩急の付け方。ピッチに入った佐藤は戦力になっている。どフリーのヘディングシュートは、まったく気持ちの入っていないお粗末なプレーだったが、初ゴールまでの道のりは、どう遠くはなさそうだ。

見事な完勝。力の差を見せつけた。これで5連勝。全てが良い方向に転がっている。

「さぁ、ほうとうを食べにいこう!」

 

甲府のアウエーは実に素晴らしい。食事がおいしい。ワインの産地。程よく遠いが、日帰りで十分な距離。旅行気分が味わえる。宿泊される方には温泉がある。歴史的建造物、城跡(2つも!)、富士山。そして、なにより、甲府の人々が素晴らしい。お店のおばちゃんのお話、そしてスタジアムの運営スタッフに至るまで、訪れる人を迎え入れるホスピタリティーの精神が浸透している。初めて小瀬のスタジアムへ行った人は、向かい入れるスタッフの挨拶に戸惑うに違いない。そして、それがマニュアルを感じさせない自然なものなのだ。

10月の甲府戦も楽しみだ。ワインも肴も勝ち点も、味わうのに最高の季節だ。