2013年 Jリーグ2階の目線 横浜0-1川崎(等々力)

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試合終了のホイッスルが寒空に響くと、アウエースタンドは沈黙。ホームAの私たちの周辺の川崎サポーターは総立ちとなり大歓声が沸き起こる。川崎にとってはAFCチャンピオンズリーグの出場権獲得が、とてつもなく大きな収穫だったようだ。大音響のスタジアムナビゲーターの喜びの声が歓喜のムードをさらに盛り上げる中で、芝生の上に崩れ落ちたトリコロールの選手たちは、やっとの思いで立ち上がり、うつむきながら、一人また一人とゴール裏の方へ歩を進めてくる。異様な静かさだった。茫然自失で立ち尽くすアウエースタンド。たまらない気持ちになって、私はホームAの最前列に走る。フェンスから身を乗り出して精一杯の大声で叫ぶ。

「天皇杯だ!天皇杯で勝つぞ!」

仲間が最前列に集まってくる。みな、大声で叫んでいる。涙声も混じりF・マリノスコールが始まる。このエリアには30歳代〜50歳代のベテランサポーターが多く残った。待ち伏せした川崎サポーターから恫喝され、座席がないかのようなカモフラージュをされ、さらには運営から理不尽な観戦ルール変更をされる劣悪な環境に、あえて身を置くことを選択した人たちだ。たくさんの仲間がここでの観戦を諦めざるを得ない決断をして、アウエースタンドへの移動をしていった。その悔しい思いも胸に抱きながらの試合開始となったが、試合が始まってからは、いつもの通りに精一杯の応援を行なった。そして、試合後も、落ち込んでいるだけでは耐えられなかった。

「すぐに次があるぞ!」

目の前には信じられない光景が現れる。そして、それは、あの2006年ドイツW杯ブラジル戦の試合終了後に、この目で見たあの風景とも一瞬で重なった。あのとき中田は孤独だった。泣き崩れる中村大先生。このクラブの一年間のリーグ戦の責任を一身に背負い攻守に走り続けてきたエースが泣き崩れたが、彼を支える選手は誰一人いない。数人のチームスタッフだけが彼を支えている。ピッチ上の監督としても振る舞い、病に倒れるまで闘った男の孤独を見る。試合中のプレーや試合後のコメントに垣間見えていた、他の日本人選手たちとの小さなギャップは、ここで大きく露呈した。他の選手たちは応援したサポーターに、早く感謝の意志を示したかったのかもしれない。それがプロ選手のファン対応として必要なことと考えたのかもしれない。そして自分のことで精一杯だったのだろう。だから自分に多くのことを与えてくれ続けてきたエースが泣き崩れる姿に気がつかなかった。2006年のジーコジャパンの分裂とは大きく異なるとはいえ、残念だが、勝つために何が必要なのかを考え走り続けてきたエースとの距離、エースに依存してしまう心理・・・多くの選手たちがもう一歩、前に踏み出すことが出来なかったリーグ戦だったのだ。

試合後、川崎市を出て日吉へ移動。天皇杯へ向けての決起会となる。

「あと3つ勝てば優勝だ。乾杯!」

笑顔を取り戻し会話を盛り上げる。天皇杯の決起会と銘打ったものの悔しさは拭いきれない。では、今日の試合は酷い試合だったのか?いや、そうではない。それについては全員の意見が一致している。後半に学がスピードで一気に抜き去ろうとして吹き飛ばされてファールをもらったシーンは驚愕だった。素晴らしいチャレンジだった。小林が、間に合わないタイミングで飛び込んでファールをし警告を受けたシーンは、大きな感動を呼んだ。一発退場でもおかしくないくらいのファールだが、気迫が十二分にスタンドに伝わってきた。そのような素晴らしいシーンの数々が会話で蘇ってくる。

会話の中で思い返してみれば、私たちはずっと幸運に恵まれていた。2003年の逆転完全制覇、2000年の逆転ステージ優勝。最終節で上位のクラブが敗れて優勝を勝ち取ることが出来ていた。今回は最終節に敗れて優勝を逃したが、この10年間の貸し借りで計算すれば、まだおつりが来るほど私たちは黒字決算だ。長くクラブの歴史を積み重ねていれば、このような日が、ここまでやってこなかったことが不思議なくらいのこと。そして、残念さ、という尺度で比較してみれば

「2000年のチャンピオンシップと比べれば、今シーズンなんて3,000倍マシだよ!」

残念だ、惜しかった、ではない。力が足りなかった。優勝に値する力ではなかった、というのが、今シーズンのリーグ戦を振り返ってみての結論だ。リーグ戦に限定すれば、最後の4試合は1勝3敗。勝ったのは降格組の磐田にだけ。得点も2得点しかない。トータルで見ると最後の8試合で5勝3敗。勝った試合の対戦相手はJ2の栃木、JFLの長野(ただし延長戦なので引き分け相当)、降格組の大分と磐田だ。これでは優勝する力が足りなかったと言わざるを得ない。そして、中村大先生が病に倒れたり、兵藤が怪我をしたり、全力を出し尽くしても力が足りなかったのだ。

仲間たちと語り合うと、意外にさばさばとしている気持ちの自分に気がつく。同じような仲間も多い。自分も含め、多くの仲間はスタジアムで涙した。悔しい。でも、この気持ちは、きっと全力を出し尽くした選手に、かなり納得をしているからだ。選手たちに感謝したい気持ちで胸がいっぱいだ。

そしてサッカーは続く。あと3勝てば天皇杯優勝だ。私たちには権利が残っている。