サポーターの常識はあてにならない マリーシア感情的サポ論

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サポーターの間には「常識」や「暗黙の了解」というものがある。しかし、ひとたび、何かトラブルが生じると、その「常識」や「暗黙の了解」はあてにはならないことが解る。

サポーターのコミュニティは小さい。日本代表サポーターという大きなくくりは日本サッカー界全体に存在して入るが、Jリーグにおけるサポーターコミュニティはサイズが小さい。まず、各クラブごとのコミュニティである。別のクラブのサポーターコミュニティとの連携は極めて少ない。また、同クラブのサポーターの中でも、ゴール裏とバックスタンドでは交流が少ない。そして、それぞれのクラブの、それぞれの観戦エリアごとに「常識」や「暗黙の了解」が異なる場合が多々あるのだ。従って、何か議論を行ない案を主張する際に、その根拠を「常識」や「暗黙の了解」とすると紛糾する。

最も有名な「暗黙の了解」は「Jリーグでは選手退場後、アウエーサポーターの速やかな退場」というもの。後に、これをスタジアム運営の正式なルールに採用するクラブが出現したが、もともとは鹿島サポーターが編み出した独自の「暗黙の了解」であった。従って、その「暗黙の了解」を知らない敵サポーターが多く、試合終了後に「暗黙のルールを守れ!」「そんな暗黙のルールは知らない!」という言い争いが多々見られた。なお、この「暗黙のルール」が編み出された理由は、鹿島特有のロケーションにある。交通の便が悪く大渋滞が日常的だったカシマスタジアムでは、アウエーサポーターは帰路を急いで自ら足早にスタジアムを退出していた。それを、鹿島サポーターが「Jリーグでは選手退場後、アウエーサポーターは速やかに退場するもの」と勘違いしたことからだ。

さて、2013年最終節でも、この「常識」「暗黙のルール」の相違が、不思議な噛み合ない議論を生み出している。ことの経緯を簡単に記す。

●アウエー席が完売。横浜サポーターがホームAのチケットを購入した。

●試合会場でホームAでの安全が確保されない運営を川崎フロンターレが行なった。

●ホームAで「応援」しようとした横浜サポーター(一部)が川崎フロンターレの運営を批判した。

●横浜サポーター(一部)の批判を川崎サポーター(一部)が批判した。

横浜サポーターは、原則としてアウエーサポーターがホームAチケットを購入することは好ましくはないが、優勝がかかった試合でホーム側に溢れてしまうアウエーサポーターが出現することはやむを得ないことと考え、そうした試合における運営方法に対して問題を提起した。なぜならば、このようなシチュエーションは、今後のJリーグで毎年のように数試合は発生することになるからだ。

それに対して川崎サポーターはじめ多くの他クラブサポーターから横浜サポーターへの批判が行なわれた。その多くは「アウエーサポーターがホームAチケット購入することは『常識はずれ』『暗黙のルールを破っている』」という主張であり、試合の運営方法が論議されることは極めて少なかった。本題の議論の前に『常識はずれ』『暗黙のルールを破っている』のみを根拠として横浜サポーターに対して批判を行なっていた例が多い。

 

さらには「応援」に対する「常識」も議論を困難にした。この試合で横浜サポーターが行なった「応援」は以下のようなスタイル。

●着席。

●ユニフォーム着用せず。

●マフラー着用せず。

●フラッグ使用せず。

一方で、現場を視認しておらずネットでトラブルを知った川崎サポーターの多くは、ユニフォームや応援グッズを身に付けて、立ち上がっての「応援」を許可するように横浜サポーターが川崎サポーターや運営にクレームを付けた、と勘違いしていたようだ。

 

「人間とは噂の奴隷であり、しかもそれを、自分で望ましいと思う色をつけた形で信じてしまう。」

「人は現実のすべてが見えるわけではなく、多くの人は見たいと思う現実しか見ない。」

いずれも帝政ローマの政治家ジュリアス・シーザーの言葉だ。「常識」「暗黙の了解」にとらわれてしまうと、相手の言葉を聞き取れなくなり、文章を読み取れなくなる。今回は、とても興味深い例が発見されている。「ホーム側でアウェイ席と同じような応援をしようとしているところに無理がある」と書き込みをしている人が、その同じ書き込みの中で、こうも書いているのだ。「うろ覚えですが、2009年の最終節の柏戦の時、日立台はバックスタンド側は全てホーム指定席で、それを購入したフロンターレサポは、席を入替えてアウェイ寄りの席に集められていたような気がします。」(※筆者注:この試合は勝てば川崎フロンターレが優勝の可能性を持っていた試合。)つまり、実は、今回、自分が批判している横浜サポーターの行為と同様の行為を、過去に川崎サポーターも行なっていたわけだ。この書き込みをされた方がそれを理解できなかった理由は「応援」=「応援グッズを身に付けて立って応援する」という「常識」にとらわれてしまい2009年の川崎サポーターとは異なる応援スタイルを2013年の横浜サポーターが展開していたと勘違いしたことにあるだろう。(実際は2009年の川崎サポーターは応援グッズに身を包んで「応援」している。2013年横浜サポーター(数名を除く)は応援グッズを身に付けていないので、逆の意味で異なる応援スタイルだった。)

以上の例から解るように、「常識」や「暗黙の了解」は議論の上で役に立たない。むしろ、混乱を呼ぶ原因の一つと考えた方が良い。また、ネット上の議論においては「批判を受けて凹んで更新をやめるブロガーに伝えたいこと」も併せて参考にすると良い。また、この文章も、なんらかの「常識」や「暗黙の了解」にとらわれているので、公平・正確なものとは言えない。