横浜2-0鳥栖 第93回天皇杯2階の目線(日産)


高山さんが試合終了のホイッスルを吹く。拳を突き上げ天に叫ぶ。終盤に鳥栖を突き放して2-0の勝利。強さとしぶとさが蘇った。叫ぶ、抱き合う、ハイタッチする・・・それだけではない。

「久しぶりに、また決勝戦を一緒に応援できるね。」

握手する。あの頃、私は20代半ばだった。今、この場所で一緒に応援している仲間で、1993年元日を一緒に近い席で応援したのは合計5名。全く違う席だったがあの日の国立競技場で共に優勝をした者も、ここにいる。中には、当時は中学生だったという者も。長かった。21年間は長かった。思えば、決勝戦進出を、これほどまでに喜んだのは初めてだ。なぜなら、あの頃、天皇杯は10年間で6度の優勝。元日を国立競技場で過ごし、そして天皇杯を頭上に掲げることは当たり前の日常だったのだ。その日常は途絶えたが、あの優勝を共に応援した仲間はJリーグが開幕して毎週末を一緒に過ごすことが日常となった。あの優勝をテレビで観戦し「Jリーグで応援するならばマリノス」と決めた者もいる。

天皇杯はノックアウト方式のタイトルマッチ。プロもアマチュアも同じ土俵で競い合う全日本選手権。ここに参加するクラブは2種類しかない。参加するクラブと優勝するクラブの2種類だ。勝たなければ意味はない。勝てば仲間が増える。元日の国立競技場へ行くだけでは、まだ参加するクラブでしかないのだ。

厳しい試合だった。鳥栖の守備に手を焼き、外でボールを回すだけ。パスは繋がるが、前へは進めない。だが、守備は見事だ。鳥栖の鋭いカウンターは未然に防ぐ。攻撃では、オフサイドポジションをゆっくり歩いていたり、棒立ちでドゥトラに追い抜かれたり、と散々だった学は守備で絶大な貢献を見せる。鳥栖の右サイドを封じ、攻撃を遅らせる。パスコースを切るだけで拍手が起こる。

同じサイドのドゥトラはあっぱれなプレーを連発。走りまくる。21年前、40歳プレーヤーの大活躍など、誰も予想できなかった。圧巻だったのはキムミヌを浮き球で抜き去ったプレー。屈辱を受けたキムミヌは後ろからドゥトラを突き飛ばした。

勝利の立役者は奈良輪だ。必用なタイミングで常に前線に顔を出す。たとえ、パスが回ってこなくても、必ず走る。その行動力に人は感動する。86分、左サイドの前線に中町が上がり学へ小さなパス。学が中にドリブルをしたとき、下がっていく鳥栖ディフェンダーによって出来たスペースに走り込んできた逆サイドのトリコロール。

「来た!奈良輪だ!」

学からパスが出る。ここで勝負あった。

「撃て!」

「頼む!」

奈良輪から藤田に渡り、ダイレクトで戻したパスを兵藤がシュート。

「ウォー!!!!!!」

「きたーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

気がつけば、椅子の上に倒れていた。86分は長かった。そして、ゴールはあまりに美しかった。その美しさは、ただ技術的に美しいのではない。歯を食いしばって走り闘い、少ないチャンスをものにする男の精神が輝きを生み出す美しさだ。

耐えに耐えた86分間と歓喜の4分間+4分間。一方、鳥栖は勝利を焦った。ユン・ジョンファン監督には、天皇杯を勝った経験がなかった。走力に上回る鳥栖は120分間を闘えば、走り勝つことが出来ただろう。だが、3日後に行なわれる決勝戦のコンディションを考えたのか、金井と水沼を投入した。90分間で勝ちにきた。そこで鳥栖の守備に穴が生まれた。その穴をトリコロールは見逃さなかった。

「守れ!」

「ゆっくり!」

「下がるな!」

「前からだ!」

ファビオは最後まで豊田を完封。中村大先生は、パスをすると見せかけてドリーブルでゴールに一直線、と見せかけて、コースを自陣側に転換してゆっくりと時間を創る名人芸。小椋の投入が第4の審判に掲出される。学はすぐ近くで自分の背番号11が表示されるのを見て、一瞬、がっかりとする。そして、見ないふりをして背中を第4の審判に向ける。金井に押し出されるまでピッチ上に居座る意地悪さ。冷静だった。

鳥栖の攻撃を跳ね返しボールは中村大先生へ。

「決めろ!」

「撃て!」

その想いは届き、しかも誰もが思ったタイミングよりもひと呼吸早くシュートは放たれる。ゴールポストに当たったボールはゆっくりとゴールの中へ。その瞬間に涙がこぼれる。叫ぶ、抱き合う、ハイタッチする。そして試合終了のホイッスルを聞く。

勝った。だが、まだ勝ってはいない。この喜びの続きは国立競技場で、長かった屈辱にまみれた日々は栄光に変わる。元日、夢は現実になる。

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