小林がドリブルで仕掛ける。倒れない。

「行け!」

「頑張れ!」

「我慢だ!」

過去、幾度となく、力を出し切らずに敗退してきた悔しい記憶があるだけに、選手たちの全力でチャレンジをする姿が心を打つ。ペナルティエリアの右隅に侵入して厳しいチェクを受ける小林への声援。倒れてもボールを失わない。中央にパスが。待ち構えていた学がシュート。素晴らしい弾道がゴールに向かって飛んでいく。

「うぉ!」

腰が浮く。そして飛ぶ。飛び跳ねる。ゴールネットが強く揺れるのが見える。穫った!奪った!先制点だ!

「決まった!」

「学!!!!!」

快晴の国立競技場に絶叫がこだまする。あまりに鮮やかな先制点に我を忘れるとなりの仲間と手を叩き合い、後ろからは小さな子供が降ってくる。帽子は飛び、初対面のように挨拶をさっきまでしていた二人が抱き合い、涙が飛ぶ。向こうの席にいたはずの人が目の前にいる。欲しかった先制点を、美しく、そして力強く奪う。

「しっかり守れ!」

「次の5分間が勝負だぞ!」

言葉の直後に大ピンチ。ディフェンスラインの裏に広島の2人が飛び出しきわどいシュートを撃たれる。榎本のファインセーブ。本当に、この5分間が勝負を分けた。向こう側のゴール前で、シュートの跳ね返りに、一人だけ素早く飛び込む姿が見える。22番だ。

「中澤!!!!!!!!!」

「やった!」

先制点からたった4分後の追加点。気がつけば21年前に一緒に応援をした仲間が、また一人、近くの席に現れていた。このスタジアムには沢山の思いでが詰まっている。過去6回の天皇杯優勝。1984年の元日に初優勝をしたとき、やはりホーム側だった。木村和司の伝説のフリーキック、フランス大会予選での暴動、イタリア大会予選での北朝鮮サポーターとの大乱闘、Jリーグ開幕、95年のJリーグ初制覇・・・などなど。

「この席って、フランス大会予選で韓国に負けたときに、一緒に見た席の辺りだね。」

この21年間、勝つときも負けるときも、いつも近くに仲間がいる。時には怒鳴り合いの喧嘩をした、サッカーと無関係の相談にも乗ってもらった、全国の安くて美味いものを一緒に食べた。そんな仲間と21年振りの天皇杯優勝への長いカウントダウンが始まる。

試合開始から、ずっと引きっぱなしだった広島が前がかりに攻めてくる。その攻撃を受け止め、前線からボールを追い、奪い、素早くパスを回して主導権を奪い返す。多くのJリーグクラブは、この広島の、相手にボールを持たせる守備戦術に攻め手を失ってきた。だが、私たちは違う。私たちは持たされるのではない。ボールを動かすのだ。プロフェッショナルなボール回しにスタンドが何度も沸く。

リーグ戦のホームゲームでは青山への対応に苦労した。今回は万全の準備をしてきたようだ。青山がハーフウェーラインを超えてパスを受けると、端戸が猛然と奪取してプレッシャーをかける。中村大先生とマークの受け渡しの連携が絶妙。両サイドは引かず高い位置で、ボールを奪う守備を繰り返す。そこへ中町がハンターのようにボールを狩りにくる。シーズン開幕当初の走って奪い取る守備が復活したのだ。強力な広島の攻撃陣への対応は中澤、栗原に富澤を加え、隙を見せない。

「ナイスカバー!」

「素晴らしい切り替え!」

ボールを奪われた後、広島のパスコースを切るためのトリコロールの動きに、歓声と賞賛の拍手が沸き起こる。何もかもが上手くいく。12月が嘘のようだ。できることならば、今からでも2013年12月の出来事は、なかったことにしたい。まったくストレスを感じない試合運び。特に端戸のチャレンジが良い。左右に流れながらのパスの受け方が良い。さらには阿吽の呼吸による学とのコンビネーションも決まる。気がつけば、スペースへのパスが多いではないか。

広島は準決勝、準々決勝を90分間で勝ち切ることが出来ず、延長戦で体力を大きく消耗した。この試合でも、何が何でも得点を奪い取ってやる!という攻撃は出来ない。そこに、守備戦術重視の広島の限界が見える。逆に、トリコロールは、この決勝戦に勝つために、準決勝の終盤で2得点を奪い取って勝ち上がってきた。広島の重たい動きと、トリコロールの躍動する鮮やかな動きは見事なコントラスト。まるで、午後の日脚を浴びるホーム側と、寒風が通り過ぎる日陰のアウエー側のようだ。

「よし!」

「上手い!」

「そこに出すのか!?」

「行け!」

「素晴らしい!」

一つ一つのプレーに反応して、自然と声が出る。一つの好プレーが、一つ大きく時計の針を進めるかのように、一歩一歩、試合終了の瞬間が近づいてくる。試合の終盤も、まるでシーズン開幕当初のようだった。

「小林は限界だろ。」

「その前にいる兵藤も、かなり厳しい。」

「もう、走れと言っても無理がある。」

「樋口さんは悩みのポーズになってしまったぞ。」

「最後の最後まで交代が遅いな。」

さて、時間を飛ばし、時は1993年1月1日。延長戦突入で満を持して投入された「読売キラー」神野が、木村和司のコーナーキックをゴールに叩き込み、残り時間が僅かになると、闘わずして「負ける気がしない」と誰もが豪語していたトリコロールのサポーターは、あるチャントを歌っていた。

そのチャントこそが「We Are Marinos」。このチャントは1992年、まだマリーシアがゴール裏の唯一のコアサポーターだった頃、アジア・カップウイナーズ・カップと天皇杯を勝ち進む中で開発され浸透していったチャントだ。誰もが歌えるにようなったのは、ちょうど、1993年元日の天皇杯決勝戦の頃。読売との天皇杯決勝戦で優勝を確信したマリーシアは、試合終了のホイッスルを待ちながら、この「We Are Marinos」を歌っていた。

今シーズン、中村大先生や、マルキーニョス、ドゥトラはタイトルへの強い想いを浸透させ選手の融合を図ってきた。ゴール裏のコアサポーターは、世代を超えて一致団結できるサポート方法を模索してきた。その象徴が「民衆の歌」「フラッグ」そして「We Are Marinos」だ。ほんとうに良いシーズンだった、そう思いながら90分、試合終了の笛を聞いた。

天皇杯決勝戦はシーズン最後の試合。前からの守備、チャレンジする攻撃、華麗なパス回し、さらには遅めの選手交代・・・すっかり身に付いた「民衆の歌」、特別なコレオグラフィをやるわけではなくスタンドを彩るのは一人一人が持ち込んだ「フラッグ」、勝利を確信して歌う「We Are Marinos」・・・ それは今シーズンの出来事。その全てが詰まった総決算の90分間だった。

一般にリーグ優勝クラブは「チャンピオン」、カップ戦優勝クラブは「カップウイナー」と呼ばれる。一方で21年前まで、リーグ戦は目立たない大会。正真正銘のサッカー日本一は、決勝戦が生中継される天皇杯の王者だった。今回の優勝はJリーグ優勝クラブが「チャンピオン」と呼ばれる。しかし、それを私たちは否定する。日本サッカー協会の原専務理事は準決勝戦終了後に広島の守備に徹する戦いぶりに「負けたくない思いが強過ぎるんじゃないかな。決勝戦は(J1の)1位(広島)と2位(横浜)の対戦になったし、天皇杯では最後の国立だからね。もっとアグレッシブに戦ってほしい」と注文をつけた。Jリーグの終盤戦でも同じような声は多く、この日のスタンドでも、他クラブのサポーターから「あんな広島のサッカーがタイトルを穫るのは日本サッカーのためにならない」という言葉をもらった。そして、私たちはJリーグで広島にホーム、アウエーとも連勝し、天皇杯決勝戦でも勝利。三連勝した。本当の「チャンピオン」は、どのクラブなのか?その答えは出た。21年ぶりに正真正銘のサッカー日本一は天皇杯の王者の手に戻ってきた。この優勝が格別なのは、「つまらないJリーグ王者」から三連勝し真の王者がトリコロールであることを証明することが出来たからだ。その想いを絶叫する。

貴賓席にトリコロールの選手が昇り天皇杯を掲げる。それを見たとき、一気に涙がこぼれる。遂に、このカップを取り返した。10年で6回の優勝をした1993年元日から21年後、7回目の優勝を達成した。

私の隣には、21年前には大学生だった今井礼欧さんがいる。1990年代前半にマリーシアの一員として一緒に応援をした今井さんは、18年ぶりに一緒にスタンドで応援をした。今は、ベルギーで日本人唯一のベルギービール醸造家として活躍する欧州の有名日本人だ。今井さんと私たちを繋いだのは、このクラブだ。1993年、このクラブを応援して、試合後に繰り広げられる老若男女入り乱れた飲み会に参加する中で、大学生だった今井さんは店を持とうと考え、その考えが元になって、自分でオリジナルのビールを造るに至った。このクラブがあったから、欧州のビール市場に「欧和ビール」が生まれ、欧州で多くの日本人が繋がった。

この21年間は長く重く苦しく・・・でも、その全ては、今日、楽しみに昇華される。皆さんと約束したい。21年後、また、このスタジアムのスタンドで会いたい。「21年前に、改修前のこのスタジアムで21年ぶりの優勝をしたよね。旧国立競技場で最多優勝だったよね。」と思い出話を語りたい。そして想像している。21年後の天皇杯優勝は何度目の天皇杯優勝となっているのだろう、と。その想像をしていたとき、私は、1993年元日に優勝したときに次の優勝が21年間も訪れなかったことを知らなかった自分のことを忘れていた。

2014年1月1日でシースン終了。そして2014年のスタート。あけましておめでとう。

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