2013年 Jリーグ2階の目線 横浜2-1湘南(BMW)

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Jリーグにおいて、このスタジアムで負けたのは、たった一度だけ。それも1994年のことだ。しかし、一方で走るチームには苦戦することは誰もが知っている。そして、前節の湘南の勢いを見れば、苦戦は必至。気持ちを引き締めて臨まなければならない一戦となった。

ところが、いきなり栗原が飛ばない。高さのあるウェリントンに競り負け・・・というよりも競らなかったのでシュートが枠に飛んでくる。幸い、このプレーで栗原は目が覚める。立ち上がりで油断が吹っ飛んだことは幸いだった。

湘南は夏の補強で良い選手を獲得。ウェリントンはハイボールに強い。そしてサボらない。前からプレッシャーをかける。ファールギリギリで飛び込んでくるために、最終ラインからの組み立てが出来ない。ウェリントンの姿がなくとも、幻にプレッシャーをかけられているかのようなミスも出る。

「こいつは頑張る選手だなー。」

「ディフェンシブフォワードとして優秀だなぁ。」

「こいつは、来年は湘南にいないかもしれないぞ。」

 

ペースを掴めないトリコロールはノーチャンス。予想通りの苦戦の立ち上がり。しかし、セットプレーのこぼれ球を中町が見事に叩き付けるシュート。マルキーニョスが触ってゴール。

「よし!!!」

「見事!!」

劣勢の中で鮮やかな先制だ。

「これは助かった。」

「どうなることかと思ったよ。」
中村大先生のアーリークロスから学ヘディング。

「すげー!」

「美しい!」

「完璧だと思ったのに。」

 

しかし攻勢は一瞬だけだ。すぐさまドゥトラのサイドが蹂躙される。上がる悲鳴。ホームでもキリノにドゥトラは突破されて失点している。そのときと似た光景が繰り返される。違いは湘南の胸にスポンサーのロゴがあるかないかの違い。同じ展開から失点しても不思議ではない。

「ドゥトラがついていけない。」

「これはヤバイぞ。」

しかも、前半終了間際にドゥトラはカードをもらってしまう。これは危険だ。前半全体を振り返れば落ち着いてパスを回し試合を支配している。1点もリードしている。ピンチはときたま訪れる。しかし、そのピンチが大ピンチになる。湘南の攻撃には迫力がある。ハーフタイムに会話。

「ドゥトラは下げて奈良輪を後半のアタマから投入した方がいいんじゃないか?」

「この流れだとドゥトラは退場もあるぞ。」

「ここで退場しちゃうと、次節はドゥトラシートなのにドゥトラが出場停止になってしまう。これはヤバい。今すぐ営業は、樋口さんにドゥトラ交代を言いにいくべきだ。」

「もしかすると、『ドゥトラシート』じゃなくって『ドゥトラがいるシート』になっちゃうかもしれないぞ。」

「それはそれで楽しいかもしれないが。」

 

だが、動いたのは湘南。後半アタマに梶川を投入し3バックに変更。後半開始早々にドゥトラの後ろにロングパスを入れてくる。

「完全に狙われている。」

 

後半もスローペースで進む。無理に攻めない。足下で繋いでボールを動かす。見せ場は少ない。

「柏戦と同じ展開だなー。」

「柏戦は70分くらいから、こんな感じだったけど、今日はまだ時間が早いぞ。」

「しかも、柏戦と比較するとチャンスがないし。」

「同じことをやるってことは、選手は柏戦の試合運びは間違っていなかったと思っているってことだよね。」

 

ところが、徐々に試合は動いてくる。ボールを奪われる。湘南の攻撃は、トリコロールとは対照的にスピーディ。一気に縦にボールを運び何度もクロスが入る。ゴール前に複数の選手が走り込んでくるので迫力がある。いつの間にか試合を支配しているのは湘南。ピッチ上もスタンドも心理的にも追い込まれていく。

「ハンドじゃねぇよ!」

「セルフジャッジするな!」

選手の動きが止まる。叫んでいるうちにボールは右サイドから左サイドに運ばれる。キリノがドリブルのスピードを上げる。

「マズい!」

「止めろ!」

シュートはポストに。しかし、リバウンドを決められる。

「馬鹿野郎!」

「何やってんだ!」

試合運びがマズい。さらにはセルフジャッジ。下位に取りこぼしをするパターンを踏襲している。誰かが局面を打開しなければならない。

ここからが本当の勝負。そして、局面を打開したのは日本代表の一つのプレーだった。いや、プレーではない。ボールとは無関係でのアクションだった。学がドリブルでペナルティエリアに侵入。タックルを受けて倒れる。それでもかまわずトリコロールは攻める。中町がショルダーチャージで吹っ飛ばされる。激しい。しかし、フェアなコンタクトの闘い。ファールをアピールすることもなくボールを追う。攻撃を止めたくない学は、タックルを受けた脚の痛みを我慢して、自ら這ってゴールラインの外に出る。プレーは止まらない。ボールは動く。これは勝利への執念を感じさせるアクションだ。

奈良輪が呼ばれる。だが投入されない。

治療を終えて、足を引きずりながらピッチの戻る学。痛みをこらえてスライディングタックル。パスが繋がりマルキーニョスの前のスペースに。学の心意気に応えてゲットするPK。一瞬の静寂の後に湧き上がる歓声。もちろん判定は誤りではないが微妙な判定だ。前節とは逆にラッキー。遅れて入ってきたスライディングタックルに、マルキーニョスが上手く脚を合わせて倒れた。湘南の選手たちは納得できないだろう。でも、判定は誤りではない。決めて同点。サンターナの動きに惑わされたがギリギリでPKを決める。

ベンチに呼ばれてユニフォーム姿になって長い時間を経過するが奈良輪が投入される雰囲気がない。樋口さんは迷っている。

「奈良輪を入れろよ、樋口!」

「70分を過ぎるまで樋口さんは学を交代させないつもりだろ。」

「そんなことより、今の状況だろ!」

「痛めているのに無理をさせてもいいことないぞ。」

何度目だろう。またしても左サイドを突破される。クロスは逆サイドへ。高山のシュートがゴールマウスを襲う。榎本が好セーブ。さらにはペナルティエリアに4名が侵入しクロスが入ってくる。跳ね返す。ピンチの連続。

再び奈良輪が呼ばれる。しかし、ここから説明が長い。

「説明は、さっき終わらせておけよ!」

コーナーキックのピンチだが学を下げて奈良輪を投入。セオリーを無視したタイミングだ。コーナーキックのときに選手交代をするとマークがずれるリスクがある。だから、通常はワンプレーを待ってから交代をする。しかし、学の脚の痛みが酷いためか、待たずにピンチで交代となった。

「だったら、さっき、PKの後に交代しておけよ!」

 

湘南は徹底した左サイド狙い。奈良輪とドゥトラだけでは止めきれず、中澤と中町が外に出る。さらにマルキーニョスが守備に加わる。そしてファール。マルキーニョスにカードが出る。

「よし、ここで藤田投入!」

すでに藤田の準備は十分に出来ている。説明も手短に済んでいる。マルキーニョスも、当然、ここで交代だろうと考えて外に走り始める。しかし、樋口さんからは待てのサイン。

「なんで待てなんだ!?」

「入れろよ!!」

さらに2度、マルキーニョスは外に出ようとする。しかし、樋口さんは全身を使って大きなジェスチャーで必死にマルキーニョスを止める。先ほどは、コーナーキックのピンチに奈良輪を投入したというのに・・・。

「なんでそこまで必死なんだ!?」

「マルキーニョスは前線にいるからマークと関係ないじゃんか。代えても問題ないだろ!」

「理由がわからねー!」

次のアウトオブプレーで藤田は投入される。

 

今季最高の観客数で盛上がるスタジアム。繰り返し寄せてくる波のように湘南の攻勢が続く。89分に中町に代えて小椋。パスの出どころを抑え込む狙いだ。しかしアディショナルタイムは5分ある。

小椋がかけたプレッシャーで高い位置からボールを奪う。パスは藤田へ。素早く見事なミドルシュート。サンターナに止められる。しかし、コーナーキック。

「コーナーキープか!?」

「止めろ!成功したことないだろ!」

さすがは中村大先生。コーナーキープと見せかけてドリブル突破でゴールを奪おうとする。そうだ、これがトリコロールだ。

榎本がフェイントで敵をかわそうとしてミス。ボールを奪われてシュートを撃たれる。その前の時間帯でも、パスを繋いで時間を使う状況でありながらドカ蹴りをしてしまいマイボールを失うなど落ち着きのないプレーを何度か行なっている。ユナイテッド戦を加えれば大きなミスは3試合連続。ベテランになっても、この男は変わらない。さらに緊迫感が高まる。

左サイドを突破される。

「ヤバイぞ!」

「止めろ!」

「コーナーか!?」

「マズい。持ちこたえられるか!?」

ここでホイッスル。

「助かった!」

「勝ったぞ!」

ブーイングに包まれるスタジアム。しかし、バックスタンドの半分とメインスタンドの1/3はトリパラが回っている。

「いやー、よく勝った。助かった。」

「落ち着きのない試合だったなー。」

「あと1分長かったら持ちこたえられなかったかもしれない。」

 

ストレスのかかる試合は終わった。勝っただけという感想もあったが、この苦しさはアウエーの醍醐味でもある。そして、日本の夏のJリーグらしい激しい試合。振り返ってみれば面白い試合だった。とにかく優勝争いをしているからには、大切なのは勝ち点3。広島は、再び射程距離に入った。