プレナスなでしこリーグは開幕を前にして参加チームが1チーム減少。奇数運営となった。TEPCOマリーゼ(東京電力女子サッカー部)が今期のリーグ参戦を中止したからだ。ニッカンスポーツによると「無期限休部へ」という報道になっている。

Jリーグのサポーターの一部には「震災でマリーゼというフットボールクラブが消える」とお考えの方もいらっしゃるようなので、少しここで私の意見を述べさせていただくことにする。


マリーゼの本拠地はJヴィレッジ。すばらしい施設だ。11面の天然芝。ホテル並の合宿施設。メインスタジアムは、当然、臨場感溢れるサッカー専用。マリーゼは、この施設で練習しホームゲームを行なってきた。ホームゲームには、地域の皆さんや東京電力関係者が1,000人から4,000人が訪れる。福島県内ではNHKが試合を生中継。民放も東京電力の提供で生中継。応援番組も東京電力の提供で毎週放送されているくらい、福島県内におけるマリーゼの存在感は絶大だ(ご存知の通り、この地域の電力は東北電力が担っている)。
ちなみに忘れている人も多いと思うが、Jヴィレッジは1995年に原発増設に対する見返りの地域振興策として130億円の建設費を東京電力が負担して建設し県に寄付した施設。県の外郭団体「県電源地域振興財団」が施設を保有し、 運営会社に貸し付けている。10周年の記念イベントに私は出席したが、福島県から知事をはじめそうそうたる面々が出席していた。建設計画が持ち上がった当時は、かなり大きく賛否が討議された施設なのだが、時の経過とともに、その記憶も風化してしまっている。
地域のチームである一方で,マリーゼは紛れもなく「企業の部活」だ。西が丘、柏の葉、三ツ沢、等々力のホームゲームにもマリーゼサポーターは多数来場する。もの凄い量の観光バスで来場する。なぜなら、各発電所や事業所ごとにバスを出して応援ツアーを組んでいるからだ。

過去に遡ってもプロ契約選手はいない。なぜなら、選手は社員だからだ。日本の女子サッカー選手において、マリーゼ入りは「最高級の幸福」だった。すばらしい環境でのプレー。同時に就職(ほとんどの他クラブの選手は仕事とサッカーの両立に苦労する)。そして、マリーゼ入りほど最高級の親孝行はないのだ。「サッカーばかりして」と言われ続けた女の子が日本を代表する大企業に社員として入社できる、それがマリーゼ入りなのだ。しかも、引退後も退職せずに仕事を続けることが出来る。

東京電力女子サッカー部マリーゼの存在は、日本サッカー界における、つかの間の幸せだった。
原子力発電所のトラブルが収まらず、マリーゼの選手達は東京電力の社員のままで自宅待機。それぞれが自主トレーニングをしている。なでしこリーグの開幕が迫り、東京電力からリーグ不参加が伝えられたわけだが、その間で、様々な検討がされていただろう。チームをまるまる引き受けようとする企業やクラブの申し出があったとしても、それは困難な方法だった。そして今後も困難だ。なぜなら、社員である選手達の雇用(しかも大企業である東京電力並の雇用)を保証することは難しいからだ。マリーゼの選手達は、日本国内でプレーする、どのプロ女子サッカー選手よりも好待遇なのだから。そして、マリーゼとしての継続も難しい。福島の地で、これまでと同様の幸せな関係を地域と築くのが絶望的なのは誰が見ても明白だからだ。
マリーゼには日本女子代表(なでしこジャパン)を含む有望な選手達が揃っている。日刊スポーツの記事によれば「希望する選手に関しては他クラブへの移籍も認めている。」とされている。ここは、いち早く、選手達に自由な選択を与えてあげられるよう、東京電力とリーグ事務局にお願いをしたい。
(1)トップレベルの女子サッカー選手としてプレーを続けるために、東京電力を退社して他のクラブに移籍する。
(2)トップレベルの女子サッカー選手としてのプレーを断念し、東京電力の社員として社業に専念する。
二つに一つだと思う。「また、一年後の来シーズンにマリーゼで今まで通りのプレーを」という根拠のない夢を抱くことはなく、今すぐに決断できる環境を用意してあげてほしいと思う。存続やチーム引き受けのために、ご苦労された方々も多いと思う。今日現在で、チームの解散・廃部は発表されていない。しかし、これから、東京電力は、更に重い社会的責任の負い方を問われるに違いない。だから、これまでマリーゼが東京電力女子サッカー部として、会社と地域とを繋いできた関係が、元に戻るとは考えにくい。たとえ、東京電力女子サッカー部が継続したとしても、そこに在籍する選手達には幸せなプレー環境とは思えないのだ。
私は、明後日、かつてマリーゼのホームゲームで7,636人の観客を集めた福島市のあずま陸上競技場へ向かう。そこには、まだ1,100人の被災者が生活している。